目次
はじめに
テクハラ という言葉、ご存知でしょうか? 「テクハラ」とは、テクノロジーハラスメントもしくはテクニカルハラスメントの略で、IT関連に疎く、PC(パソコン)やスマートフォンなどの扱いが苦手な人へのいじめ・嫌がらせのことです。ITに関する知識が豊富でスキルの高い人が、そうではない人に対し、わざと難解な専門用語で指示を出したり、相手が対応できないと侮辱的な言葉で叱責したりする行為がテクハラに相当するとされています。
当初は、IT機器に疎い中高年社員に対しての嫌がらせと言われていましたが、クラウドサービス利用の増加、コロナ禍での在宅勤務・テレワークの導入によるITスキル要求度合いの変化など、環境の変化に伴い、PC等の設定などに疎い方々が追いついていけない状況になりつつあります。このような中、デジタルネイティブである、若い部下から上司にというケースも増えているようです。
今回はこちらのテーマをIT業界人の視点から、全3回に分けご紹介したいと思います。
テクハラって?
先日、こんな記事がありました。
玉川徹氏 テクハラの時代に自虐発言
「いま野に放たれると市場価値がほとんどない」テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」が8日、職場でITが苦手な上司へのテクノロジー・ハラスメント(テクハラ)を取り上げ、同社の玉川徹氏は「僕の場合は結構できませんから、いま野に放たれると市場価値がほとんどない」などと自虐的に語った。
番組ではテクハラの実情とともに、「ITに疎くてもこれくらいはできてほしい」という街の声を紹介。「Exel、パワポを使う」「リモート会議の設定」「書類のPDF化」「メールの設定」「スクリーンショット」「聞かれて何度か教えたこと」を挙げた。
玉川氏は、挙げられた項目を見ながら「結構できませんよ、僕。Exelはできるけど、パワーポイント使えないです。この仕事でパワーポイントを使う業務が一切なかった。リモート会議は、これはスタート一緒でしょう…いっぱいありますよ」と、できない事が多いと告白。MCの羽鳥慎一が「玉川さんは結構できないことあるみたいなんですけど、仕事上いらないからできないわけ。ただ、このテクハラで出てる人たちは、仕事上いるのにできない人たちで…」と説明した。 その上で、羽鳥は「今までの一般的は上から下へのハラスメントもそうですけど、言い方もある。『それ前に言いましたよね』だと、言われた方も『えっ…』となる。今までも上から『それ前に言っただろっ』て言われると『えっ…』てなっちゃうっていう。玉川さん、時代ですよ」と、今やITを巡って下からハラスメントを受ける時代になったことに感慨を込めた。(原文ママ)
デイリースポーツ
他にも、日本経済新聞 「無自覚の「テクハラ」、部下でも加害者に」でテクハラについての記事があります。
言葉自体は2013年頃から登場し始めていたのですが、前述の通り、コロナ禍で在宅勤務や、テレワークの導入により改めてITスキルが求められるようになったこと、働き方改革や、DX (デジタルトランスフォーメーション)が推し進められていくことを背景に、再度注目されつつあるテーマです。
ITはいまや必須のビジネスツールです。それなしでは、企業活動そのものが立ち行かないというケースも決して珍しくありません。そのため、社会人であれば誰もができて当然であり、業務に必要なスキルであるにも関わらず、できないのは、身につけようとしないほうが悪い、怠慢であるという見方もあるでしょう。ITスキル、リテラシーの高い人や活用に意欲的な人からすると、そうでない人がサボっているように見えてしまうのも理解はできます。
テクハラの ケーススタディ
では、どのようなケースがテクハラにあたるのか、についてみていきましょう。
全般的なところでは、「PC操作を苦手としている社員に、PCを使用する業務を強要した」場合が該当します。具体的にはどんなケースでしょうか。
PCの苦手な社員にPC関連の業務を指示する
このケースは上司→部下のケースが多いでしょう。
前述の記事で紹介した「Excel、パワポを使う」「リモート会議の設定」「書類のPDF化」「メールの設定」「スクリーンショット」をPCの苦手な社員に対して指示することなどがこのケースにあたります。「ITに疎くてもこれくらいはできてほしい」という町の声が紹介されるほどですので、業務上できないと厳しいと思いますが、苦手な方もいらっしゃるのは事実です。
ポイントとしては、PCの苦手な社員に対して指示、強要するというところになりますね。
暗号化した添付ファイルを送付する
このケースは部下→上司、同僚からというケースになるかと思います。
例えばPCが苦手な上司に対して、Wordなどの書類をメールで送付する際に、情報漏えい防止の為、添付ファイルに暗号化したパスワード付きZipファイルを送付するなどのケースです。2020年1月に話題となったPPAP 「Password付きZIPファイルを送ります、Passwordを送ります、Aん号化(暗号化)Protocol(プロトコル)」問題のようなケースですね。
ポイントとしては、あえてメールを受け取った側がWordなどの書類を見られないように嫌がらせをしているところになりますね。
ITの専門用語を使って説明する
このケースも部下→上司、同僚からというケースが多そうですね。
デジタルネイティブである若い世代だと、IT用語に慣れ親しんでいる方も数多くいらっしゃいます。そのため、当たり前のように使用するのですが、知らない人にとってみては何を言っているのかわかりません。
以下はあるWeb制作会社の代表の方の挨拶です。
真のエクセレント・カンパニーを目指して
株式会社LIG 第8期 代表あいさつ
今、IT業界は革命の時代に突入しています。
2000年初頭に起こったパラダイムシフトにより様々なキャズムが取り払われ、各社のコアコンピタンスがコモディティ化された結果、先の見えない不況が我々の眼前に覆いかぶさってきています。LIGは自社の強みでもあるファクトベースにおけるブルーオーシャン戦略、いわゆるボトルネックを排除したベネフィット創出事業にフルコミットする事で、安定的な成長を続けています。
こちらの株式会社LIGは、ネット上で度々話題になるユーモアのあるコンテンツで有名です。公式のFacebookでも、「LIGのことを全く知らない人は、びっくりしちゃうみたいですね!」とコメントされている通り、意識高い系社長にありがちな挨拶を「あえて」やられているようです。
案の定、「わかりやすく言え」「日本語で言え」「カタカナ語を使うな」という反応があったそうですが、きっとこれはユーモアの表れなのではないかと思います。
しかし、あえて、意図的に、悪意を持ってわからないような言葉で語り続けると、相手は何を言っているのかわかりませんし、嫌な気持ちになるのは必至でしょう。こういったケースがテクハラに該当するのだと思います。
IT業界に身をおいている筆者からすると、「え? そんなことも?」と感じてしまう部分もあるのですが、ふと、自身の両親に同じことをした場合、理解できるだろうか…と考えてみると非常に納得できました。
いわゆるデジタルネイティブである、ミレニアル世代にとってみると、PCは学生時代から講義や論文、就職活動でも使用しており、スマートフォンは友人とのコミュニケーションツールで使っているので、使えて当たり前です。
このような状態から、PCでメールを1通送るのに非常に時間をかける上司を見ると、サボっている、怠慢であると見えてしまうこともあるのかもしれません。
まとめ
今回のテクハラというワード、IT業界に身を置くものとして、記事を目にしたとき、悲しい気持ちになりましたが、一方で、自分自身を省みる機会にもなりました。自分自身、打合せや説明の際に、専門的な用語ばかりを並べ立て、わかりにくい説明となっていない(いなかった)だろうか? など、心掛けるきっかけにしていきたいと思います。
次回は逆テクハラという言葉についてご紹介できればと思います。