デジタル庁 とは?

2021年9月、デジタル改革を推し進める現・菅政権により新たにデジタル庁 が発足しました。本記事ではデジタル庁の特徴や期待されることについて説明します。

強い権限

デジタル庁には”強力な総合調整機能(勧告権等)”が付与されています。勧告権とは他の行政機関に対して意見を提出できる権利で、各省庁の縦割り構造を越えて規制改革を進められるようになります。他に勧告権を持つ行政機関は復興庁や消費者庁、原子力委員会などがあります。また、これまで各省庁に配分されていた関連予算をデジタル庁で一元管理し、施策の遂行を強力に統括できます。

内閣直属組織

デジタル庁は内閣直属の組織として、長を内閣総理大臣、その下にデジタル大臣の他、事務次官に相当するデジタル監などが置かれます。また、具体的な施策の推進は内閣総理大臣を議長とするデジタル社会推進会議で行われ、各府省庁の職員から選ばれた幹事やデジタル監らが検証・評価を行います。

官民問わない人材の配置

2021年9月時点で組織の規模は約600人、うち約200人が民間からの採用となりました。配置先も官民問わず、審議官や課長級などの幹部職などが用意されているとしています。更に、優秀な人材を確保するために民間、自治体、政府を行き来できるよう兼業や副業、テレワークなどの柔軟な働き方を認めています。

デジタル庁 に期待されること

デジタル庁には、新型コロナウイルス感染症によって改めて浮き彫りとなった日本のデジタル化の遅れを取り戻す役割が期待されています。例えば、感染者の集計にFAXを利用していて、遅いうえに間違いが多いと指摘された事により、日本のメディアのみならず、海外のメディアからも注目されるほどのアナログぶりを露呈しました。

こうした課題を解決するためには、行政サービスの電子化や、マイナンバーなどと連動した公金受取口座の登録などを推し進める必要があります。しかし、現在は国と自治体で使われているシステムが分かれているため、行政システムの標準化も行う必要があります。

これらの長年先送りにされてきた課題解決に向け、スピード感をもって強力にリードしていく司令塔の役割がデジタル庁に期待されていることです。そしてデジタル化を進める事は、今回の新型コロナウイルス感染症への対応だけでなく、今後起こりうる地震などの大規模災害や、少子高齢化社会に生じる課題への対応にも繋がっていくと考えられます。

デジタル大臣として就任した平井卓也氏のインタビューでは、“制度設計やシステム設計の基本的な考え方を事前に整理しておくことで、緊急時には新しいサービスを1週間で立ち上げられるようにすることも目標にしていきます” ともありました。緊急時は迅速な対応を開始することが最優先となります。行動に移す事で足りない箇所が判明し、より最適な対応に近づけるためです。開始までに必要な期間がこれまでより遥かに短くなることはとても喜ばしい事です。

また、同インタビュー内では”22年をめどに国のシステムを改修し、国民が口座を登録してくれていたら、経済対策や災害時対応の際に申請なくお金を渡せるようにしたいと思っています。これは長い申請主義の日本の行政システムの歴史の大転換点だと思います。”としており、給付金の申請主義からの脱却も目指しています。これまでのように、制度の存在をそもそも知らない、もしくは申請の手続きが複雑すぎて恩恵を受けられない人が減ることが期待されます。

デジタル庁 に立ちはだかる壁

しかし、日本はこれまで幾度となくデジタル化を進めようとし、失敗してきました。

2000年に制定されたIT基本法を始めとして、デジタル化に関する法律は多く制定されてきましたが、結局前章で書いた事態となりました。失敗の要因は複数考えられますが、ここでは2つ取り上げます。

行政の継続性の乏しさ

最近だと、2021年2月に判明したコロナ対策のための接触確認アプリ「COCOA(ココア)」の不具合は、行政の継続性の乏しさが要因の1つと考えられます。COCOAではAndroid版で通知が届かなくなる不具合が4ヶ月以上も放置されていました。一般的に、アプリは開発後も定期的な点検や改善が必要ですが、厚生労働省の報告書からも読み取れるように省内に「作ったらそれで終わり」という認識の甘さがあり、発見の遅れに繋がったと推測されます。

厚生労働省に限らず、どの行政組織においても施策を打ち出すだけでなく、継続させ、更に時代に合わせてアップデートしていく体制を整えないと、デジタル化の推進は困難です。

【参考】COCOA不具合調査・再発防止策検討チーム
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-soumu_030416.html

縦割り行政

縦割り行政は、デジタル化に限らず日本の行政における問題点として長年指摘されています。専門性を持って効率的な業務ができるため、縦割りは他国でも見られる合理的な組織構造です。しかし、時代とともに、新しい技術に伴う管轄範囲の拡大による機能の重複などで、往々にして省庁や部署内の上下の連携以外に、横方向の業務調整が必要となります。

日本は上下関係がはっきりした階層主義的である一方で、意思決定は組織内で合意を取っていく文化のため、例えば意思決定は会議でされるものの、会議前にいかに全体に根回しをしておくかが求められるという手間がかかる組織になりやすいです。

この手間はスピード感を損ない、また全体を説得しなければいけないため、前例が無い事に消極的な人がいた場合は横方向の調整が滞る事も起きえます。デジタル化の対象となる行政機関の体制や職員たちの意識も根本から見つめ直さないと、2000年から行ってきた取り組みの繰り返しに終わる可能性もあります。

デジタル庁 の活動によるIT業界への影響

デジタル庁の発足によって業界には新たなシステム構築のニーズが生まれると考えられます。前述の通り、デジタル庁では行政システムの標準化を目指しています。これに伴い、あらゆる行政サービスがネットを介して利用が可能になります。

更にマイナンバーカードをスマホでも扱えるようになり、電子証明書機能がスマホに搭載されることで口座開設や携帯電話の申し込み、公的手続き、資格の証明や就業手続き、引越しに伴う住民票や各種契約の移行といった生活のあらゆる箇所にデジタル化のニーズが生まれると予想できます。

人材獲得にも影響を与えるでしょう。デジタル庁ではCOCOAやワクチン接種記録システム(VRS)などは内製化する想定です。そのためにデジタル庁は民間からも優秀な人材を獲得するために多様な働き方ができる環境を整えており、業界におけるトップエンジニアの獲得競争がより激しくなることが予想されます。

生活のデジタル化が浸透した場合、スマホやPCを持っていない、使えない人は取り残される可能性もあります。そういった市民に対するケアや知識の発信といった役割も、将来的にIT業界は担えるのではないでしょうか。科学の世界では既に、社会に向けて科学の面白さや正しい知識を学んでもらい、共に考えていくための「サイエンスコミュニケーション」という対話的な活動が浸透しており、参考にできる点も多くあると思われます。

おわりに

本記事ではデジタル庁について改めて見て来ました。いかがでしたでしょうか。

新型コロナウイルス感染症によって改めて、日本の行政のデジタル化の遅れが浮き彫りとなりました。その解決をリードする役割がデジタル庁には期待されています。デジタル化が進めば私達の生活はより便利になることでしょう。しかし、「作ったらそれで終わり」という考えのままでは叶わない未来となるかもしれません。

デジタル庁に任せるだけでなく、私達も一人一人がデジタル化に関心を持ち、行政の取り組みを見守っていく事が実行性を高めることに繋がります。本記事が少しでもデジタル庁への理解の助けとなれば幸いです。