はじめに

日本の携帯電話料金は他国と比べても高額で、家計を圧迫する1つの要因となっています。そのため総務省も、「携帯電話ポータルサイト」を通じて、自分にあった料金プランや携帯会社を選択できるよう、情報発信を行っています。そのなかでも大手キャリアの提供する大容量プランについて、契約者数と実態を示すことにより、低用量の格安SIMを利用するよう促す動きもあります。そこで今回は格安SIMの基礎知識や仕組みなどについてご紹介します。

格安SIM とは?

「格安スマホ」「格安SIM」とは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどの大手携帯会社から「ネットワークを借りて」携帯電話サービスを提供するMVNO(Mobile Virtual Network Operator/仮想移動体通信事業者)と呼ばれる事業者のサービスを指します。大手携帯会社と比較して注意すべき点もありますが、一般的に利用料金が安いといったメリットがあります。代表的な事業者としては以下のようなものがあります。

MVNOについては「知らないと絶対損をする MVNOとは? 格安SIMとは?」で紹介・解説しています。

格安SIM の料金が安い理由

docomo、au、SoftBankといった大手キャリアの場合、段階性などプランの種類はありますが、端末本体の分割代金を含まずに毎月3000円~6000円以上といったプランが主流となっています。それに対して、格安SIMでは毎月1000円未満で電話とインターネット両方が利用できるプランもあります。なぜこんなにも料金に差が出るのでしょうか。その背景には、いくつか理由があります。

莫大な設備投資をしていない

大手キャリアは携帯電話による通信サービスを提供するために、基地局などのネットワーク通信設備に莫大な投資を行ってきました。それに対して、格安SIMを提供しているMVNO事業者は、大手キャリアの通信回線や設備をレンタルして使用しているため、莫大な設備投資をすることなく利用できます。つまりサービスを提供するために必要なコストが少ないので、そのコストの差が利用料金という形で現れているのです。

店舗を持っていない

大手キャリアはそれぞれ独自のショップを運営しています。正確には大手キャリアと契約を結んだ代理店が運営しているものですが、このキャリアショップを運営していくためのコストが必要になります。この費用も、利用料金を高くしていることにつながっています。その反面、一部の例外はありますが、格安SIMを提供するMVNO事業者は店舗を構えていません。加入等の手続きも、主にオンラインによるWeb上からの申し込みのため、大手キャリアに比べて大きくコストを削減することができるのです。

回線や設備をレンタルしていること、実店舗を持たないことにより、大幅なコスト削減が可能で、大手キャリアより安い価格で提供できています。

格安SIMのメリットとデメリット

上述のように料金が大手キャリアより安いにもかかわらず、格安SIM利用者だらけになっていないのは、なにか理由があるはずです。そこで、改めて格安SIMを利用するメリットとデメリットを見ていきましょう。

格安SIM のメリット

格安SIMのメリットを見ていきます。大きくは3つあります。

利用料金が安い

格安SIMと呼ばれるだけあって、毎月の利用料金が大手キャリアに比べて安いプランが揃っています。大手キャリアのSIMから格安SIMに乗り換えるだけで、月々の利用料金を3000円以上節約できるケースも珍しくありません。筆者の場合、大手キャリアから格安SIMに乗り換えた際には、月額5000円程度節約できました。

低容量から利用でき、料金プランが比較的シンプル

現在は改善傾向にありますが、大手キャリアのプランは割引条件が複雑です。例えば「月々980円から」と打ち出しておきながらも、実際に契約すると様々な条件が付けられて、結局のところ宣伝文句よりも高くなってしまうというケースもありました。

例えば2020年12月9日、KDDIでは「au新サービス発表会」を実施しました。その前週にNTTドコモが発表した「ahamo」の対抗プランが発表されるものと見込まれていましたが、発表された新プランは、データ使い放題のプランに月額500円の「Amazonプライム」がついてくるというものでしかありませんでした。さらには、料金を月額3760円からとアピールしたにもかかわらず、実際は9350円のプランでした。このときネット上では「#さよならau」のハッシュタグで大炎上とバッシングが巻き起こりました。

格安SIMではこういった紛らわしい表示や、複雑な割引条件などもなく、1~3プランのみ、データ容量も低用量から利用できるといったメリットがあります。

手続きがオンラインで完結する

大手キャリアでもオンラインショップでの契約がありますが、SIMのみの契約はつい最近までできませんでした。また、オンラインでの解約もやっと対応し始めたところです。格安SIMの場合、申し込みや料金プランの変更、解約手続きまでオンラインで完結します。大手キャリアのようにキャリアショップで長い時間待たされ、料金プランの変更をする必要はなく、オンラインで申し込みを行い、後はSIMが届くのを待つだけということになります。

格安SIM のデメリット

では、デメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか。まず羅列してみると、以下のようなものが挙げられます。

  • 混雑時は通信速度が遅くなる
  • LINEのID検索ができない (年齢認証ができない)
  • 支払い方法がクレジットカードのみ
  • キャリアメールが使えない
  • 使える端末を自身で調べる必要がある
  • 店舗によるサポートがない
  • 初期設定を自分でする必要がある

すべてを紹介しきれませんので、ポイントのみご説明します。

混雑時は通信速度が遅くなる

格安SIMの弱点です。回線を大手キャリアからレンタルしているため、利用できる帯域には制限があります。そのため、8時台、12時台、19~20時台などのネットワークがよく利用される時間帯には通信速度が非常に遅くなります。

使える端末を自身で調べる必要がある

端末の中には「各格安SIMで動作確認済み」と謳われるものが増えていますが、基本的に全ての格安SIMを網羅しているわけではありません。また、各キャリアにより、大手キャリアで購入した端末を使用する場合、端末自体の周波数帯(バンド)が異なることもありますので、同じ機種でも購入元キャリアにより注意が必要です。

他にもSIMの形状や、SIMロック解除が必要など、条件がある場合があります。

初期設定を自分でする必要がある

先ほどのSIMロック解除もこれに含まれるのですが、APN設定と呼ばれるMVNO事業者が提供するネットワークへの接続設定が必要になります。大手キャリアの場合は、自動的に設定されるので意識する必要がありませんが、不慣れな方ですと少々やっかいな設定かもしれません。

格安SIM のこれから

2010年代初頭にSIMカードの単体販売が始まりました。これはNTTドコモの回線を利用するものでした。その後いくつかの事業者が参入することで、現在では格安SIMと呼ばれるサービスがスタートしました。ですが、SIMフリー端末はごく少数であったことや、SIMロック解除の問題、端末の購入と回線契約をセットで行い割引を受ける方式が主流だったことから、格安SIMが注目されることはありませんでした。

しかし、2010年代中盤に入るとこの状況が変化します。iPhoneを筆頭にSIMフリー端末が増加し、SIMロック解除の義務化が開始、NTTドコモ以外にもKDDIやソフトバンクの回線を利用したMVNOが開始し、格安SIMの注目度が高まりました。その結果、利用者の増加とともに多数の事業者が参入することでシェア争いが勃発。それぞれ独自のサービスで差別化を図るようになりました。

2010年代終盤には、業界再編の動きが起こります。MVNOにおいては、事業を他社に売却する事例や、MNOの傘下に入る事例が発生します。一方で、MNOにおいては、楽天モバイルがMNOに参入し、三大キャリアによる寡占状態に一石を投じます。また、菅官房長官(当時)の「4割値下げ」発言に端を発して、端末代金と通信料金を分ける分離プランの義務化、2020年には三大キャリアがオンライン申し込み専用などこれまでとは異なる独自の料金プランを発表します。これらは格安SIMの大きな武器である「料金の安さ」に切り込むものとなっています。

格安SIMのアドバンテージであった価格というメリットが失われつつあるため、競争が激化し、動画サービスや、ゲームの通信量をカウントフリーとする独自プランを打ち出す会社も見られ、今後も大きな動きがでてくるでしょう。

このように、格安SIMはそのメリットとデメリット含めて賢く利用すれば大きな恩恵を受けることができることを知っておくといいでしょう。