はじめに

最近、報道番組やネットニュース記事でよく見聞きするようになった「SDGs」という言葉を皆さんご存じでしょうか?直訳すると、 SDGs とは「Sustainable Development Goals」の略称で、「持続可能な開発目標」といわれています。

昨今では、世界中の様々な国で環境問題・貧困・紛争・人権問題・新型コロナウイルス…と挙げたら切りがないほどに、多くの課題に直面しています。このままでは安定した暮らしを続けることが困難になるのではないか、と心配されるようになってきました。その状況下で、「これらの課題を世界のみんなで2030年までに解決していこう」と誕生したのが「SDGs」となります。

SDGs 17の目標

では、具体的には何を目標に掲げているのでしょうか。それは「SDGs 17の目標」となります。

SDGs
SDGs 国連グローバル・コミュニケーション局

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大きく分けて「社会」「経済」「環境」の3分野と、全体に関わる「枠組み」に分けられます。

「社会」
1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に

貧困と飢餓の問題を解決し、すべての人が平等で、衛生的な環境のもとで健康に、教育が受けられることへの取り組み

「経済」
7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8. 働きがいも 経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤を作ろう
10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任 つかう責任

すべての人が経済的に豊かで満たさせて暮らしができることへの取り組み

「環境」
13. 気候変動に具体的な対策を
14. 海の豊かさを守ろう
15. 陸の豊かさも守ろう

持続可能な消費と生産、天然資源の持続可能な管理といった地球環境保護への取り組み

「枠組み」
16. 平和と公正をすべてに人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう

平和であり続けること、協力しあうことへの取り組み

以上が「SDGs 17の目標」となります。これらの目標を達成するため、日本政府の取り組みに注目が集まっています。ただ、達成のために動き出しているのは政府だけではありません。今回は、我々IT業界の取り組みに焦点をあて、詳しく掘り下げていこうと思います!

ICTが実現する持続可能な社会

持続可能な社会の実現に向けてICTは、どのような役割を果たし得るのでしょうか。この大きな課題に取り組み、様々な調査や活動を行っているのが、世界中のIT企業や国際機関によって構成されるGlobal Enabling Sustainability Initiative (略称:GeSI)という国際組織です。ここではこのGeSIが2015年に発表した包括的な報告書を元にICTとSDGsとが如何なる関係にあるのかについて概観してみましょう。

温室効果ガス排出量の削減

GeSIの調査は、広汎な産業分野においてICTを活用したソリューションを用いることによって、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を二酸化炭素相当でおよそ12Gt削減することが可能であると結論付けています。これは割合にして20%もの大幅な削減であり、予測通りに削減が進展すれば、世界の温室効果ガス総排出量を2015年の水準に止めることが出来るということを意味しています。

ICTによる産業部門ごとの温室効果ガスの削減予想(2030年・単位Gt)

GeSI(2015)#SMARTer2030 ICT Solutions for 21st Century Challenges p.9より

一方、ICT分野自体が排出する温室効果ガスの割合は年々減少しており、2030年時点での排出量は1.25Gt(全排出量中の1.97%)に止まると予測されています。単純計算すれば、ICT分野は自身の排出する量の9.7倍もの温室効果ガスを削減することになります。
SDGsは、温室効果ガス排出量の増大に起因する気候変動に対して具体的な対応を速やかに行うことを求めていますが、この点に関してICTが果たし得る貢献はとりわけ大きいものだと言えるでしょう。

資源利用の効率化

ICTの活用は資源利用の効率性を飛躍的に高めるとも考えられています。例えば、農業分野におけるスマート化の拡大は、将来的に1ha当たり900kgもの年次収穫量の増大をもたらすと予測されています。また、全産業部門でICT化が予測通りに進展した場合、2030年には実に332兆ℓもの水資源と250億バレルもの石油を節約することが出来ると見積もられています。更に、運輸分野において1億3500万台もの自動車が削減されるという予測も、特筆するに値するでしょう。

ICTによる地球環境に対する恩恵(2030年)

GeSI(2015)#SMARTer2030 ICT Solutions for 21st Century Challenges

こうした資源利用の効率化が、SDGsの内、地球環境の保全に関わるのは勿論のこと、飢餓の撲滅や安全な水の確保といったゴールにも大きく貢献するものであることは言うまでもありません。

社会的サービスの提供

ICTの活用がもたらす恩恵は、何も環境分野に対するものに限りません。人々の生活水準を向上させるという課題においてもICTが果たす役割は極めて大きいということを、GeSIは明らかにしています。
スマートフォンを主とするスマートデバイスの普及率は、近年、世界中で加速度的に上昇していますが、こうした潮流を背景として、2030年までに25億もの人々が新たにICTサービスへと接続されると考えられています。そしてこうした通信網が、広い範囲の人々、先進国の人々は勿論、発展途上国の最も収入の少ない階層の人々に至るまでに生活上欠くべからざる社会的サービスを提供することを可能にするのです。

このようにICTを通じたサービスの拡大が最も期待されている分野の一つが医療です。スマート化された医療、いわゆるE-Healthは、医療従事者から患者まで、医療に関わるあらゆる関係者・機関の間でのシームレスな情報のやり取りを目指すもので、具体的には、遠隔診療・治療や、ビッグデータ等の活用による治療法の最適化等のソリューションを通じて実現されます。

また、医療と並んでスマート化の恩恵を受けると予測されているのが、教育分野です。スマートデバイスとインターネットを通じて提供されるE-Learningは、地域や年齢といった制約を廃した教育や、個人に最適化されたカリキュラムを可能にすると考えられています。

E-HealthとE-Learning、共にサービスが提供される範囲の拡大とその質の向上とを同時に実現するものであり、幅広い階層の人々にメリットをもたらすと評価出来るでしょう。2030年には16億もの人々がE-Healthに、4億5000万人がE-Learningにアクセスすることが出来るようになると試算されています。こうしたサービス提供の拡大が、それぞれSDGsにおける第3と第4の目標、すなわち質の高い医療と教育との公正な提供に大きく寄与するものであることは言うまでもありません。また、第1の目標である貧困の撲滅や第10の目標である格差の是正のための基盤を提供することも疑いようのないのものと思います。

以上、GeSIの研究結果に従ってICTとSDGsとの関わりについてみてきました。ICTが如何に持続可能な社会の実現に不可欠な技術であるかがお判りいただけたかと思います。ここで挙げたもの以外にも、GeSIの報告書はICTが実現する持続可能な社会へのソリューションを数多く紹介しています(例えば、人々の収入機会の増大であったり、居住環境の改善であったり)。是非GeSIの報告書を直接ご覧下さい。

日本における SDGs の認知度

日本企業におけるSDGsの認知度も年々上昇してきています。GPIF(年金積立金管理運用独立法人)が2020年に行った調査によると、東証1部上場の大企業におけるSDGsの認知度は96.4%であり、61.6%もの企業が何らかの取り組みを始めています。

これは、SDGs が社会を良くする、もしくは環境を改善するためだけに行うものではなく、企業価値の向上や、将来のビジネスチャンスにつながるものと捉えられているためです。

持続可能な活動が新たなビジネスを生み、企業価値向上にも貢献できるとしたら、この上ない良い流れですよね。

おわりに

SDGsとICTとの実り多き関係について述べてきました。最近話題のこれら2つの単語が実は無関係ではないこと、むしろ、深い関係にあることがご理解いただけたのではないかと思います。

SDGsの目標達成年まで十年を切った今、世界中でその達成に向けた取り組みがより積極的になされるようになっています。それに伴って企業によるICTを活用したソリューションの導入もまた、拡大の一途を辿っています。こうした流れは今後ますます加速していくことでしょう。

持続可能な社会の実現に向けて努力することは、現代社会に生きる全ての人々に課せられた倫理的な責務だと言えます。ICTがSDGsの達成に果たし得る役割の大きさについて知ることは、私たち一人ひとりがこの課題に対して如何なるアクションを取り得るかを考える時、きっと一つの大きな判断材料を提供してくれるでしょう。