はじめに

デジタル庁が2021年9月1日に創設される見込みとなり、国民の漠然としたデジタル機運も高まっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)について見聞きすることも多くなり、DXが企業経営における次世代の最重要課題とする提言まで出てきています。では、企業のDXが注目を浴びる中、政府のDXについてはどのような状況なのでしょうか。今回は政府のDXを支える「デジタルガバメント」について説明します。

デジタルガバメントとは?

デジタルガバメントは直訳するとデジタル政府です。

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デジタルはペーパーレスやらオンラインやらと何となくイメージできますが、改めて政府とは何なのでしょうか。政府は中央政府だけを指す場合、また行政機関だけを指す場合など、文脈によって狭義から広義まで指し示す範囲が異なりますが、デジタルガバメントの文脈では中央政府と地方政府、立法・司法・行政の各機関を含む統治機構全体を包含するものとして使用しています。

これはデジタルガバメントが目指す姿が関係していますが、デジタルガバメントは利用者目線で公共サービス全体が「すぐ使えて」「簡単で」「便利な」ものになることを目指しています。

そこには、国・地方公共団体の役割や省庁の管轄などの垣根は関係ありません。例えば、確定申告を行う場合には住民票が必要となる場合がありますが、利用者目線でサービスを考えれば税務署が然るべき情報にアクセスできれば、住民票をわざわざ取得する必要がなくなります。もう少し進めば、エストニアのように課税計算が自動で処理されて、確定申告自体が不要な状態になる可能性があります。

既存の業務を前提とせず、デジタル技術を活用しながら、産官学民の生産性向上に寄与するような公共サービスを提供する、まさにDXの考え方がデジタルガバメント実現には必要になるのでしょう。

日本における行政のデジタル化への歩み

振り返ると、日本の政府がIT(情報技術)利用を本格的に推進し始めたのは20年以上前の1994年でした。電子商取引の本格的普及、公共分野の情報化、情報リテラシーの向上、高度な情報通信インフラの整備、4つを基本方針に「高度情報通信社会推進本部」が内閣に設置されました。

そこから「行政情報化推進基本計画」が策定され、各省庁の施設内ネットワークを相互に接続する霞が関WANの整備や、各省庁にあるITシステムのオープン化が推進されていきました。また、インターネットの普及とともに、各種情報のオンライン公開も進みました。

2000年になると「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」が制定されました。「高度情報通信ネットワーク」とはインターネットを主に指し示しているのですが、IT基本法の内容はインターネット活用を非常に意識した内容となっています。IT基本法を根拠に「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)」が内閣に設置され、政府のIT戦略である「e-Japan戦略」が策定されます。

そして「e-Japan戦略」の方策の1つとして「電子政府の実現」というものが出てきます。具体的には、2003年までに行政(国・地方自治体)内部の電子化、官民接点のオンライン化、行政情報のインターネット公開・利用促進、地方公共団体の取組み支援等を推進し、電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現し、幅広い国民・事業者のIT化を促すとあります。

私自身も2000年初頭に参議院のインターネット審議中継システムや民営化前のかんぽ関連システムに携わりましたが、当時の盛り上がりを思い出します。ただ、細かい内容はさておき、電子政府はデジタルガバメントの考え方と異なるというのがポイントです。

デジタルガバメントも電子政府と訳せそうなのですが、ざっくり電子政府は公共サービス提供者目線での電子化であり、デジタルガバメントは利用者目線での電子化となるため、似て非なるものだということを抑えておく必要があります。

「e-Japan戦略」には2003年という節目の年が記載されていましたが、さすがに日本の優秀な官僚、総務省によると、2003年には国の行政手続の96%がインターネット経由で受付可能な状態となったようです。ただ、問題も大きく2つありました。

それは、利用頻度の低い行政手続までオンライン化したため費用対効果に見合わなかったこと、利用者目線での設計となっていなかったため利用が進まなかったことでした。前者についてはシステム範囲の見直しやシステム停止、後者については業務プロセスの見直しも含めた利用促進といった対応を行っていきますが、まさに電子政府の考え方の問題が顕在化したものと言えるでしょう。

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総務省情報通信統計平成25年から

その後、企業と同様に仮想化やクラウドの利用などが進んでいき、コスト削減の観点では一定の成果を上げていきます。2017年になると「デジタルガバメント推進方針」が示されましたが、その中で「我が国がこれまで築いてきた豊かさを持続的に享受するためには、痛みを伴ったとしても、変化に対応した社会構造へと変革していくことが不可欠である」と政府の覚悟が見て取れます。

なお、この資料の中では「デジタルガバメント」についての定義が書かれており、「サービス、プラットフォーム、ガバナンスといった電子行政に関する全てのレイヤーがデジタル社会に対応した形に変革された状態を指す」となっています。

デジタルガバメント実施計画とは?

2018年に「デジタルガバメント実行計画」が策定されましたが、その後も2019年と2020年に改訂されています。その中では、あらゆる行政サービスを最初から最後までデジタルで完結させることが描かれており、デジタル3原則なるものが書かれています。

  1. デジタルファースト(個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
  2. ワンスオンリー(一度提出した情報は、二度提出することを不要とする)
  3. コネクテッド・ワンストップ(民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)

上記がそれですが、実現すれば利用者は好きな時間に場所にとらわれずにサービスを受けることが可能となります。また、政府だけでなく民間も巻き込んだサービスとなることが描かれています。

実現すれば利用者は好きな時間に場所にとらわれずにサービスを受けることが可能となります。また、政府だけでなく民間も巻き込んだサービスとなることが描かれています。

政府CIO補佐官のひとりが講演の中で発言されていましたが、政府だけがサービスプロバイダになるのは不可能であり、民間も巻き込んで一緒に創っていくというのがデジタルガバメントの形となっていきます。

前述したエストニアの確定申告の例ですが、これは銀行や証券口座の情報が”X-Road”という情報連携プラットフォームを介して参照できる状態であることから実現しています。

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日本もマイナンバーカードが導入され口座との紐づけも進んでいます。ただし、国民の漠然とした不安はまだ払拭できていない状態があると考えらます。

子供から高齢者まで誰一人取り残さないデジタル中心の人間社会の実現、労働者人口が減少している中で日本が引き続き成長していくためにもデジタルガバメントの実現は必須ですが、国民の理解も同時に進めていく必要があります。