はじめに

インターネット環境の整備によるオンラインを利用したサービスの展開、コロナ禍によるニューノーマル(New Normal)と呼ばれる生活様式が今までの生活に大きな変化をもたらし始めていることにより、注目を集めている言葉があります。それがメタバース(Metaverse)です。

世界でも名だたる企業がメタバース産業への参入を宣言しており、先日開催された、世界最大規模の最新技術の見本市「CES」でもメタバースに関連する技術に大きな注目が集まりました。では、メタバースとは一体何なのでしょうか?

本記事では、メタバースとは?という基本的な部分から、実際に我々の生活にどう役立つのかについてもアプローチしてみます。

メタバース(Metaverse)とは?

メタバース(Metaverse)とは、超越した、超という意味を持つ「Meta (メタ)」と宇宙、全世界などの意味を持つ、「Universe (ユニバース)」という言葉をかけ合わせて作られた言葉です。

メタバースの由来は1990年代に発表されたSF小説に登場する架空の仮想空間サービスです。日本では仮想空間と約されることが多く、もう少し理解しやすい言葉に置き換えると、VR(バーチャル・リアリティ)が作り出す仮想的な現実です。実際にそこには存在しないのですが、人間の五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)を刺激して、VRを通して得られる体験をあたかも現実のように感じられるということです。

ライトノベルやアニメがお好きな方は、ソードアート・オンラインなどのVRMMOの世界や、映画がお好きな方はマトリックスの世界を思い浮かべていただくと想像しやすいです。

メタバースの特徴

では、メタバースの特徴をご紹介していきます。大きくは4つあります。

自己投影のためのアバター(分身)が存在

自身を投影するアバター(分身)という存在が欠かせません。いわゆるメタバースの空間で人間の五感を通じた体験をするわけですら、アバター(分身)が必要となります。ここでは、ゲームなどのキャラクターを想像していただくと理解しやすいと思います。

3次元の仮想空間

つづいてアバターが動き回ることのできる世界、現実と同様に3次元の空間が必要となります。こちらがないとアバターも動き回ることができませんので、必須ですね。

複数のアバター(分身)が仮想空間を共有する

現実世界と同様に他人と世界を共有します。ユーザーがアバター(分身)を通じてコミュニケーションを取り、似たような目的や興味関心を持つユーザーと交流することになります。

仮想空間にオブジェクトを設置できる

オブジェクト、つまり建築物や、自身で作成したアートなどを想像、設置することができます。

メタバースとVRの違いは?

ここまでの説明で、メタバースとVRが混同しやすいと感じた方もいらっしゃるかもしれません。筆者も最初は混同しました。

簡潔に表現するならば、メタバースは「オンライン上に存在する仮想空間」のことです。VRは「仮想空間にアクセスするためのデバイス」と理解するといいでしょう。

メタバースはその名の通り「空間」や「世界」のことを指し、「VR」はMeta Quest 2 (Oculus Quest 2)を使ってみた!〜ゼロから始めるVRの世界〜でご紹介したOculus Quest 2のようなデバイスや手段を指します。

メタバース, Metaverse

メタバース の実例は?

ここまで記事をお読みになった方で、疑問をお持ちになった方もいるでしょう。ゲーム好きな方であれば、FINAL FANTASY XIVなどに代表されるMMORPGや、最近ではApex Legends、フォートナイトなどのオンラインゲームもメタバースなのでは?という疑問です。

広義の意味ではこれらもメタバースにあたります。現在のメタバースはあくまでコンセプトの域を出ておらず、人間の五感を再現するという領域までは至っていない事実もありますが、先程挙げたメタバースの特徴にはしっかりと合致しています。

では、今挙げたようなもの以外にはどんな実例があるのでしょうか?
もう少し皆さんにも関わりの有りそうなところで考えてみましょう。

多くの子供達がよく触れているメタバースとしては「Mine craft」がありますね。こちらは2011年にリリースされ、今でも遊ばれているゲームです。また、コロナ禍で流行したメタバースとしては「あつまれ どうぶつの森」がありますね。2020年にリリースされ、数多くの方が遊ばれたと思います。こちらは、コロナ禍でのコミュニケーションツールの一つとして世界的に大ヒットしたということもあり、多くの方がご存知かと思います。

メタバース はどんな用途で役に立つ?

コロナ禍でテレワークが推進される中で、メタバースが注目を浴びています。それはなぜでしょうか? テレワークの普及率はどのくらい?〜導入状況と課題について〜の中でもご紹介していますが、業務上の意思疎通について課題を感じている方や孤独感や疎外感を感じているという方が見受けられます。
こういった状況にメタバースが役に立つという発想です。では、実例を見てみましょう。

バーチャルオフィスでテレワーク

今、メタバースを利用したバーチャルオフィスが注目されています。代表的なサービスでは「oVice」があります。

こちらのサービスは、同じ組織の社員が操るアバターが仮想空間のオフィスにいることにより、すぐに話しかけることができる、会話がクローズドにならず近くにいる人にも聞こえてくるというように実際のオフィスに居るようなコミュニケーションを取ることができることが大きな特徴です。

ほかにも、先日社名を「Meta」に変更したFacebookが発表した「Horizon Workrooms」があります。こちらはまだベータ版となりますが、Oculus Quest 2などのVRデバイスを利用し、目の前に同僚がいるような状態で会議を行うことができるといったサービスです。

また、マイクロソフト社も社イベントで、「メタバースの入り口」として、Microsoft Teamsを拡張した「Mesh for Teams」を2022年に提供する、と発表しています。

このように、メタバースはテレワークにおけるコミュニケーション上の課題解決について、大きな注目を集めています。

メタバース と観光やイベント

観光やイベントの分野でもメタバースは大いに有効だと考えられています。
実際に、今までメタバースを使用して開催された例を見てみましょう。

バーチャルハマスタ

横浜DeNAベイスターズは「バーチャルハマスタ」というイベントを開催していました。コロナ禍で野球観戦にも入場制限であったり、無観客であったりとなかなか実際に球場に足を運んでの観戦はできない状態でした。そのため、メタバース上にホーム球場である、横浜スタジアムを再現し、約3万人が試合観戦を楽しむというイベントを開催していました。これにより、三密や飛沫の飛散を気にせず、仲の良いファン同士が会話しながら試合観戦を楽しむことができました。

バーチャル・ジャパン・プラットフォーム

他にも旅行会社各社がVRを活用した新感覚体験型の旅行プログラムというものを企画しています。いわゆるVRによる360°の旅行先の体験というものがメインですが、株式会社FIXER、株式会社JTB、株式会社Fun Japan Communicationsが共同で開発した、「バーチャル・ジャパン・プラットフォーム」というものを提供していました。完成度としては正直まだまだで、酷評されてしまったという事実もあるのですが、コロナ禍における旅行・観光の体験という意味ではメタバースを使用した意欲的な試みであったと感じています。

バーチャル渋谷

もっと身近なところでは、バーチャル渋谷があります。
現実の渋谷を再現したバーチャル空間で、渋谷区公認の配信プラットフォームとなっています。アーティストのライブ、アート作品の展示、季節イベントの開催といった、渋谷ならではの雰囲気を体験できるようなメタバースのワールドとなっています。こちらはメタバースプラットフォーム「cluster」で作成されたワールドとなっており、KDDI株式会社、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会を中心とした、「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が企画運営しています。

2021年10月16日から31日までは「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021」が開催されるなど、コロナ禍でのイベント開催のあり方にも変化が生じていると言えるでしょう。

メタバース上で働く

メタバース上の広がりのある世界で、イベントなどが開催された場合、現実世界と同様の課題が生まれます。

イベントであれば目的地までの道案内、ショールーム的な利用方法であれば、説明を行う方などです。メタバース上では、「好きな場所、好きな時、 好きな自分で働こう」のメッセージ通り、場所や外見、性別などの身体的要素に縛られない働き方ができます。これにより、「勤務地とは遠方に住んでいる」「小さな子供がいて働ける時間が限られる」「自身の外見的な特徴で応募がしづらい」といった、応募までのハードルを下げることができるといった効果があるようです。

メタジョブ!では、前述のバーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021に公式スタッフとして募集を行うなどで訪問ユーザーの満足度に貢献しています。
執筆現在募集されている内容では、「バーチャル空間に再現された百貨店での案内スタッフ」、「VR空間内での案内スタッフ」といった、ものから、「体験型推理ゲームのアバターゲームマスター」という少々変わった内容もありました。

NFTと仮想通貨

今後のメタバースの発展においては、重要な要素としてNFT(ノン・ファンジブルトークン)や仮想通貨(暗号資産)が挙げられます。NFTも現在注目を集めている技術の一つで、非代替性トークンとも呼ばれ、デジタルデータの所有権を限定することができ、いままでのデジタルコンテンツのようにコピー・複製することが不可能であることが大きな特徴です。メタバース上での所有権を限定するといった使い方も考えられています。

また、ビットコインを始めとする仮想通貨も、メタバース上での商取引に非常に有効です。全世界から接続できるメタバースならではの特徴で、共通の通貨が必要となってきます。その際に新たにメタバース上の通貨を作成し、乱立させるよりは、今あるものを利用してしまったほうが効率的なのは明白と言えるでしょう。

メタバース の ワールド はどのように開発する?

では、メタバースのワールドの開発はどのようすすめるのでしょうか?
メタバースプラットフォーム「cluster」では数多くのワールドが公開されています。実際に社内のワンフロアを再現する試みを形にした、VRプロジェクトがありました。その詳細な様子は、VR開発とは?〜必要な機材と開発方法を紹介〜でご紹介していますが、概ね以下のような流れで進めています。

  • ワールドモデリング
  • ワールド上のオブジェクト配置
  • ライティング
  • 軽量化

実際に開発を進めていた際の様子が以下の画像です。

まとめ

今回はメタバースについてご紹介しました。
現在では、将来的にインターネット環境が到達するであろうコンセプトという位置づけであり、まだまだ発展途上の分野でもあります。先進的なIT技術の特徴として、まず話題が先行し、どのように利用するのかを研究したあとに、徐々に実用化されていくという流れが多くあります。そのため、一般的なユーザが恩恵を受けるのはまだまだ先になってしまうかもしれません。それでも、メタバースにはアニメやゲーム、映画の世界で憧れた仮想空間を体験することのできる、個人的にはかなり夢のある分野だと感じています。

コロナ禍で特定の分野のIT技術の進化がめざましく、メタバースの分野に関してはその進化速度は群を抜いていると言えるでしょう。2003年にSecond Life(セカンドライフ)というゲーム(メタバース)が運営開始されました。現在のアクティブユーザ数は不明ですが、賑わっているとは言い難い状態です。

ですが、現在はパソコンのスペックも大幅に向上し、今までは企業しか開発できなかったようなメタバースのワールド個人でも開発できる状況にあります。アクセスするユーザ側の状況としても、スマートフォンからメタバースにアクセスできる状況にある、など以前とは大きく環境も異なっており、普及は容易になっていると言えるのではないでしょうか?

IT業界に身を置くものとして、より皆様のITに対する知識が深まるよう、本サイト名である「Users Digital – テクノロジーをユーザの手に」の名の通り、ITに不慣れで、あまり意識せずに使用されている方にも向けた、身近なテクノロジーについての情報を発信して参ります。