2015年9月に国連で採択された「SDGs」という国際目標があります。もちろん日本でも、SDGsの達成に向け、政府や多くの企業が取り組んでいます。しかしながら、国連によるとSDGs 138項目のうち順調なのは15%で37%が停滞・悪化していると発表しています。

IT(情報技術)とSDGs(持続可能な開発目標)は、現代社会において密接に関連しています。IT企業は持続可能性を促進するためにさまざまな取り組みを行っており、企業の情報システム部の担当者や一般事務社員にとっても重要な情報です。そのため、IT企業もさまざまな方法でSDGsに貢献する事ができるのです。

マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、SDGsに関するイベント会場でテレビ東京のインタビューに応じ、新型コロナやウクライナ侵攻などでSDGs目標の達成に大幅な遅れが出ている中、挽回のカギはAIの活用にあると語っています。

本記事では、IT(情報技術)でSDGs(持続可能な開発目標)にどのような貢献がされているのか、実例を挙げつつ解説します。

IT分野で取り組めるSDGs

わかりやすい代表的なものを紹介

複数の目標に関わるもの

ITで複数の目標に貢献している事例があります。「クラウドリフト」や「グリーンIT」があります。

クラウドリフト

クラウドリフトとは、Amazon Web Services (AWS)のような、クラウドコンピューティングの利用によって、組織や個人の持続可能な発展を促進することを指します。SDGsとの関わりは、クラウドリフトが多くの目標や指標に貢献できる可能性があるからです。例えば、クラウドリフトは以下のような効果をもたらすと考えられます。

クラウドコンピューティングの利用によって、システムを集中化することにより、エネルギー効率の向上や温室効果ガスの削減につながります。さらに、クラウドコンピューティングを利用したシステムにより、気候変動や自然災害に対する適応力やレジリエンスを高めるためのツールとしても活用できます。これは、「目標7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や、「目標13. 気候変動に具体的な対策を」に関連しています。

また、クラウドコンピューティングの利用によって、教育や医療などの社会サービスへのアクセスや品質が向上します。これは、「目標4. 質の高い教育をみんなに」に関連しています。

グリーンIT

グリーンITとは、情報技術(IT)を利用して環境問題に取り組むことです。例えば、省エネルギーやリサイクルなどの環境負荷を低減するIT機器の開発や運用(IT機器の省エネ化)、または、ITを活用して環境保護活動や温暖化対策などの社会的課題に貢献(ITによる省エネ化)することです。

IT機器の省エネ化については、サーバーやパソコンにおいて、消費電力を抑えた半導体製品を活用することにより省エネ化されたIT機器を開発する、または、システムを導入する際にそれらの機器を積極的に採用するといった取り組みが挙げられます。これは、「目標7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や、「目標12.つくる責任 つかう責任」に関連しています。

ITによる省エネ化については、IT技術を活用することにより、業務や、流通・機器・設備などを効率化することで、環境問題に取り組む事が挙げられます。これは、「目標13. 気候変動に具体的な対策を」に関連しています。

目標4.質の高い教育をみんなに

「目標4.質の高い教育をみんなに」にITで貢献している事例があります。「オンライン教育の普及」や「デジタル教材の開発」があります。

オンライン教育の普及

オンライン教育の普及にはCoursera、edXなどのMOOC(Massive Open Online Courses)があります。これは世界中の一流大学が提供する講座をオンラインで受講できるプラットフォームです。これにより、地域や経済的な制約から解放され、多くの人々が高質な教育を受ける機会を得ることができます。

デジタル教材の開発

デジタル教材を自身で開発、共有することができる仕組みもあります。

クイズレット(Quizlet)は、学習者が自分でフラッシュカードを作成し、それを使って学習することができるアプリケーションです。また、他のユーザーが作成したフラッシュカードを共有することも可能です。

カーンアカデミー(Khan Academy)は数学や科学など、さまざまな科目の学習をサポートするための教材を提供しています。ビデオレクチャーと練習問題を組み合わせた学習方法は、個々の学習者に合わせた自己学習を可能にします。

目標8.働きがいも経済成長も

「目標8.働きがいも経済成長も」にITで貢献している事例があります。「ITを活用した働き方改革」や「多種多様な働き方による雇用の創出」があります。

ITを活用した働き方改革

ITを活用した働き方改革は、リモートワーク、テレワークの導入などがいい例と言えるでしょう。

リモートワーク、テレワークは、子育て世代の従業員のワークライフバランスや生産性を向上させるだけでなく、交通渋滞や温室効果ガス排出の削減にもつながります。また、ITを活用した教育や研修などは、従業員のスキルアップやキャリア開発を促進するとともに、ITを活用したコミュニケーションやコラボレーションツールなどは、従業員のエンゲージメントやチームワークを高めるほか、多様なバックグラウンドや視点を持つ人々との連携やイノベーションにも貢献します。

多種多様な働き方による雇用の創出(テレワーク・ライフスタイル)

前述のリモートワーク、テレワークといった柔軟な働き方を導入することで、地域や家庭の事情に応じて働ける人を増やし、雇用機会を拡大する事が可能となります。

例えば、子育て世代の労働者が、リモートワークが可能な場合、子供の面倒を見つつ、働くことも可能となります。これは出社が必須の場合、子供を何処かに預ける必要がありますが、必ずしも預ける事ができるとは限りません。こういった働きかたにより、新たな雇用を創出することが可能となります。

目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう

SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に該当する、ネットスーパーやAI、IoTの活用については、以下のようにITが大きく貢献しています。

ネットスーパー

ネットスーパーは、ITを活用した新たな小売りの形態で、消費者が自宅から食品や日用品を注文できるサービスです。これにより、時間や場所にとらわれずに買い物ができるため、消費者の利便性が向上します。また、データ分析による在庫管理の最適化や、配送効率化によるCO2排出の削減など、持続可能なビジネスモデルの構築にも寄与しています。

AIやIoTの活用

AIやIoTが進化することで、製造業やサービス業など様々な産業における効率化や新たなビジネスモデルの創出が可能となります。例えば、IoTデバイスから集められるデータをAIで分析することで、製造ラインの効率化、故障の予防、エネルギーの最適化などが可能となります。

目標10.人や国の不平等をなくそう

「目標10.人や国の不平等をなくそう」にITで貢献している事例があります。「画像認識によるAI手話翻訳」や「他言語翻訳」があります。

画像認識によるAI手話翻訳

Googleの「Project Euphonia」は、音声障害者の人々がコミュニケーションを取れるようにするためのプロジェクトを進めています。音声認識技術を用いて、音声障害者の人々の話す言葉をテキストに変換し、それを通常の話し言葉に変換することで、コミュニケーションの障壁を取り除く試みです。

他にもMicrosoftの「Seeing AI」があります。視覚障害者の人々が周囲の世界を理解するのを助けるためのアプリです。カメラを通じて取り込んだ映像を解析し、その内容を音声で説明します。この技術を応用して、手話をテキストに翻訳することも可能です。

他言語翻訳

Google翻訳はAIを駆使した翻訳サービスで、100以上の言語を翻訳することが可能です。テキストだけでなく、音声や画像からの翻訳も可能で、スマートフォンのカメラを通じて看板などの文字をリアルタイムで翻訳することもできます。

また、Microsoftの「Translator」:60以上の言語をサポートし、テキストや音声の翻訳が可能です。また、会話モードを利用すれば、マルチリンガルな会話もリアルタイムで翻訳することができます。

目標12.つくる責任 つかう責任

「目標12.つくる責任 つかう責任」では、「パソコンのリサイクルやリユース」が該当します。

パソコンのリサイクル

日本では2003年からパソコンリサイクル法が施行されており、一部のPCメーカーは消費者から不要になったパソコンを回収し、適切にリサイクルする責任を負っています。これにより、貴重な資源の再利用が進められています。

また、Appleでは、不要になったApple製品を回収してリサイクルまたはリユースしています。製品が再利用可能な場合は、その価値をAppleストアギフトカードとして消費者に還元します。

パソコンのリユース

不要になったパソコンを整備し、再販売するリユースPCショップがあります。これにより、PCの寿命が延び、新たに製造されるPCの数が減り、環境負荷が軽減されます。

NPO法人PCリユース協議会では不要になったパソコンを収集し、データ消去や修理、再設定などを行った上で、教育機関や発展途上国へ寄贈する活動を行っています。

目標13.気候変動に具体的な対策を

「目標13.気候変動に具体的な対策を」でも、ITは貢献しています。「カーシェアリング」や「シェアサイクル」が該当します。

カーシェアリング

カーシェアリングサービス(例:タイムズカープラス、カレコなど)では、スマートフォンアプリを通じて車両の予約や開錠、料金支払いができます。これにより、ユーザーは必要な時だけ車を利用することができ、所有する必要がなくなります。これは、車の生産やメンテナンスによる環境負荷を減らし、駐車スペースの効率的な利用を促進します。これらの運営に必要なシステムやプラットフォームを整備しています。

シェアサイクル

シェアサイクルサービス(例:ドコモバイクシェア、ヘルメットズなど)では、スマートフォンアプリを通じて自転車の予約、開錠、返却が可能です。これにより、公共交通機関との組み合わせや短距離の移動に便利で、自動車の利用を減らすことができます。また、自転車は排出ガスがなく、エネルギー効率が良いため、気候変動対策に有効です。これらの運営に必要なシステムやプラットフォームを整備しています。

目標15.陸の豊かさも守ろう

SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」に該当する、ペーパーレス化の推進については、以下のようにITが大きく貢献しています。

電子署名

電子署名サービス(例:Adobe Sign、DocuSignなど)では、書類の署名をデジタル化することが可能です。これにより、紙の使用を大幅に減らすことができます。また、デジタル化されたデータは、保管や管理が容易であり、作業の効率化にもつながります。

クラウドストレージ

クラウドストレージサービス(例:Google Drive、Dropboxなど)を利用することで、データをデジタル化し、紙の使用を減らすことができます。また、クラウドストレージは、場所を問わずにデータにアクセスでき、データの共有も容易なため、作業の効率化にも寄与します。

Web会議

ZoomやTeamsなどのビデオ会議ツールを用いることで、会議資料をデジタル化し、紙の使用を減らすことができます。また、遠隔地からの参加が可能なため、移動によるCO2排出量も削減できます。

IT企業の具体的な取り組み

多くのIT企業が、SDGsへの取り組みを積極的に行っています。以下に、いくつかの具体的な取り組みを紹介します。

NTTデータ

SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に取り組んでおり、2019年には「働き方改革宣言」を発表しました。この宣言では、2025年までに、女性の管理職比率を30%に引き上げることや、男性の育児休業取得率を20%に引き上げることを目指しています。NTTデータは、この宣言に基づき、女性の活躍推進や、男性の育児休業取得を促進するための取り組みを進めています。

ソフトバンク

SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に取り組んでおり、2019年には「環境への取り組み」に関する中期経営計画を策定しました。この計画では、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で50%削減することを目指しています。ソフトバンクは、この計画に基づき、再生可能エネルギーの導入や、省エネ設備の導入を進めています。

マイクロソフト

マイクロソフトはSDGsに対する取り組みの一つとして、2020年に「カーボン ネガティブ」を宣言しました。これは2030年までに自社の発生する二酸化炭素を現在のレベルよりも減らし、2050年までに創業以来の排出量を相殺するというものです。また、持続可能な電力供給を促進するための「AI for Earth」プログラムも展開しています。

Amazon

Amazonは「Pledge」を立ち上げ、2040年までにネットゼロカーボン(自社の二酸化炭素排出量をゼロにする)を達成すると宣言しています。また、100,000台の電気自動車を導入するなど、物流における環境負荷の軽減にも取り組んでいます。

Google

Googleは持続可能性への取り組みとして、2017年からデータセンターやオフィスを展開していますが、2017 年にはその運営に必要な電力の 100% を再生可能エネルギーで賄うことができる見込みとなったと発表しています。今後は2030 年までに全世界で 24 時間 365 日カーボンフリー エネルギーを基盤に事業を運営することを目標としています。また、AIを活用した環境保護の取り組みも行っており、「Global Fishing Watch」プロジェクトでは違法漁業を監視し、海洋生態系の保護に貢献しています。

まとめ

ITとSDGsは、相互に影響し合う関係にあります。ITは、SDGsの達成に向けて多大な貢献をするであろうと考えられています。同時にSDGsは、ITの発展に向けて新たなチャレンジやチャンスを提供します。

本記事では、持続可能な開発目標(SDGs)とIT分野との密接な関係について詳しく解説しました。ITは、SDGsの多くの目標達成に向けた取り組みを支える重要な役割を果たしています。

教育の質を高めるためのオンライン教育の普及やデジタル教材の開発(目標4)、仕事の形態の多様化を支えるテレワークの推進(目標8)、産業や社会の技術革新を促進するAIやIoTの活用(目標9)、人間や国の不平等をなくすためのAI手話翻訳や言語翻訳(目標10)、資源の有効活用を促進するパソコンのリサイクルやリユース(目標12)、気候変動に具体的な対策をするためのカーシェアリングやシェアサイクルの推進(目標13)、そして陸地の豊かさを守るためのペーパーレス化(目標15)など、ITの進歩と普及がSDGsの達成に大きく寄与しています。

また、KDDI、NTTデータ、ソフトバンク、マイクロソフト、Amazon、GoogleといったIT企業の具体的な取り組みを見ても、それぞれが自社のビジネスを通じてSDGsの目標達成に向けた活動を行っており、社会全体の持続可能性向上に貢献しています。

これらの事例を通じて、ITがSDGs達成に向けた強力なツールであることが明らかとなりました。今後もITの進化とその可能性を最大限に活用することで、より良い未来の実現に向けた取り組みが進むことを期待します。