2015年9月に国連で採択された「SDGs」という国際目標があります。もちろん日本でも、SDGsの達成に向け、政府や多くの企業が取り組んでいます。
IT(情報技術)とSDGs(持続可能な開発目標)は、現代社会において密接に関連しています。IT企業は持続可能性を促進するためにさまざまな取り組みを行っており、企業の情報システム部の担当者や一般事務社員にとっても重要な情報です。そのため、IT企業もさまざまな方法でSDGsに貢献する事ができるのです。
また、内閣府で進めている、「Society 5.0」は人間中心の社会を実現するために、ITなどの先進的な技術を活用して、経済成長と社会課題の解決を両立させることを目指しています。SDGs とSociety 5.0は、多くの点で相互に関連し、補完し合っています。
本記事では、SDGs とSociety 5.0の関係性、どのようにITでSDGsに貢献するのかを解説していきます。SDGsとICTとの関係についてはこちらでも解説しています。
目次
SDGsとは
SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、2015年9月に国連で採択された2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットからなる国際的な目標です。
SDGsは、貧困や飢餓、気候変動などの地球規模の課題に対処するとともに、人間の尊厳や平和、人権を守るために、すべての国が協力して取り組むべきものとされています。SDGsは、先進国や途上国の区別なく、全ての国が参加する普遍的なものであり、日本も積極的に取り組んでいます。
SDGsの17の目標
SDGsの17の目標は以下の通りです。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも 経済成長も
- 産業と技術革新の基盤を作ろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべてに人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
これらの目標は相互に関連しており、「誰一人取り残さない」(leave no one behind)という理念に基づいています。
SDGsとITの関連性
IT(Information Technology)は、情報の収集、処理、共有、保管を可能にするテクノロジーを指します。
一方、SDGs(Sustainable Development Goals)は、持続可能な未来を実現するための国際的な目標であり、17の目標から構成されています。これらのゴールは、社会、環境、経済の側面から持続可能性を追求するものであり、ITはその実現に大きく貢献する要素となっています。
ITがSDGsに果たす役割
ITとSDGsは、密接に関係しています。ITは、SDGsの達成に向けて、以下のような役割を果たすことができます。
1. イノベーションとデジタルトランスフォーメーション
IT企業は、持続可能な技術やソリューションの開発に注力しています。例えば、再生可能エネルギーの効率的な管理を可能にするシステムや、環境への影響を最小限に抑える製品の設計などがあります。これにより、SDGsの目標7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)や目標12(つくる責任 つかう責任)への貢献が期待されています。
2. データ分析と意思決定
ITはデータの収集と分析において重要な役割を果たし、ビジネスや政策決定において持続可能性の観点から洞察を提供します。例えば、エネルギー消費の最適化や廃棄物削減のためのデータ駆動型のアプローチは、SDGsの目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)や目標11(住み続けられるまちづくりを)への貢献が期待されています。
3. 教育とアクセス
ITは教育へのアクセスを向上させ、SDGsの目標4(質の高い教育をみんなに)に寄与します。特に、アフリカやアジアなどの発展途上国などにおいて、オンライン教育プラットフォームの整備を通じた教育の普及に貢献を期待されています。
他にも、SNSやウェブサイトなどのプラットフォームを用いて、SDGsに関する情報や活動を発信し、多くの人々に届けることができます。また、オンラインコミュニティやネットワークを構築し、SDGsに関心を持つ人々や組織同士が交流や協働を行うことができます。こういった、提唱・啓発やパートナーシップ(協力・連携)を促進することも期待されています。
日本のSDGsの達成は遅れている?
持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)とベルテルスマン財団(Bertelsmann Stiftung)によって作成されたSustainable Development Report 2023が2023年6月に発表されました。
これによると、ランキングの対象になった、166カ国のうち、日本のSDGs達成度は世界21位となっています。上位にランクインしているのは、主に北欧の国で以下のような順位となっています。
順位 | 国名 | スコア |
1位 | フィンランド | 86.76 |
2位 | スウェーデン | 85.98 |
3位 | デンマーク | 85.68 |
4位 | ドイツ | 83.36 |
5位 | オーストリア | 82.28 |
6位 | フランス | 82.05 |
7位 | ノルウェー | 82.00 |
8位 | チェコ共和国 | 81.87 |
9位 | ポーランド | 81.80 |
10位 | エストニア | 81.68 |
11位 | イギリス | 81.65 |
12位 | クロアチア | 81.50 |
13位 | スロベニア | 81.01 |
14位 | ラトビア | 80.68 |
15位 | スイス | 80.54 |
16位 | スペイン | 80.43 |
17位 | アイルランド | 80.15 |
18位 | ポルトガル | 80.02 |
19位 | ベルギー | 79.46 |
20位 | オランダ | 79.42 |
21位 | 日本 | 79.41 |
SDGsの日本の達成度
では、SDGsの17の目標別に日本の達成度を確認してみましょう。
目標につけられている色は評価の達成度を表し、緑は「目標達成」、黄は「課題が残っている」、オレンジは「重要な課題が残っている」、赤は「主要な課題が残っている」、という状態を表しています。
上記を確認する限り、「4. 質の高い教育をみんなに」、「9. 産業と技術革新の基盤を作ろう」はすでに達成済みであることがわかります。逆に、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「12. つくる責任 つかう責任」、「13. 気候変動に具体的な対策を」、「14. 海の豊かさを守ろう」、「15. 陸の豊かさも守ろう」は、主要な課題が残っており、達成度としてはまだまだであることがわかります。
続いて、各目標の横にある矢印について解説します。これは、2030年までの目標達成に向けた進捗(しんちょく)(変化・動向)が表されています。
緑/上向きの矢印(On track or maintaining SDG achievement) | 2030年の目標達成に向けて順調に推移している もしくは目標達成値を超えている |
黄/右斜め上向きの矢印(Moderately improving) | 適度に改善し、目標に向かって推移している 進捗(しんちょく)率(51%~99%未満) |
オレンジ/右向きの矢印(Stagnating) | 停滞している、目標に向かって横ばいで推移している 進捗(しんちょく)率(50%未満) |
赤/下向きの矢印(Decreasing) | 取り組みが悪い方向に向かっている |
過去の推移も併せて参照した際に、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「12. つくる責任 つかう責任」は、達成度は低いものの、推移は悪くなく、今後に向けて期待が持てます。ですが、「13. 気候変動に具体的な対策を」、「14. 海の豊かさを守ろう」、「15. 陸の豊かさも守ろう」は、達成度も低く、推移も芳しく有りません。そのため、取り組みの強化が必要であることがわかります。
このように、それぞれの目標だけでなく、目標別の達成度(4種類)や、目標達成に向けた進捗(しんちょく)(変化・動向)も知っておくと、日本のSDGsへの取り組みをより知ることができます。
SDGsを実現するにはSociety 5.0が必要?
Society 5.0とは
Society 5.0とは、政府が提唱する新しい社会のコンセプトです。
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)”
内閣府「Society 5.0」
と定義づけられています。
Society 5.0は、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く人類史上5番目の社会であり、デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、新しい価値やサービスを創出します。
現在の情報社会(Society4.0)では、知識や情報の共有や分野横断的な連携が不十分であるという課題があります。
人間の能力には限界があり、膨大な情報の中から必要なものを選別し分析することは大きな負担です。また、年齢や障害によって労働や行動に制限がある人も多くいます。さらに、少子高齢化や地方の過疎化などの社会的な問題に対処するためには、様々な制約を乗り越える必要がありますが、それは容易ではありません。
Society 5.0とは、IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)などの先端技術を活用して、人間の幸福や社会の持続可能性を高めることを目指す社会のビジョンです。
このビジョンでは、人とモノがインターネットによってつながり、知識や情報が共有されることで、新しい価値が創造されます。例えば、AIが人々のニーズや状況に応じて最適な情報を提供したり、ロボットや自動走行車が人々の生活や移動を支援したりすることで、社会課題や困難に対処します。
Society 5.0は、イノベーションによって社会の変革を促進し、閉塞感を打破することで、希望に満ちた社会を実現します。Society 5.0は、世代や地域を超えて互いに尊重し合う社会であり、一人一人が快適に活躍できる社会でもあります。
Society 5.0のしくみ
Society 5.0とは、仮想空間と現実空間を高度に統合した社会システムのことです。
従来の情報社会(Society4.0)では、人間がインターネットを通じてクラウドサービスにアクセスし、情報やデータを取得・分析していました。
Society 5.0では、現実空間のセンサーが収集した大量の情報が仮想空間に蓄積されます。仮想空間では、人工知能がこのビッグデータを分析し、その結果がさまざまな方法で人間に還元されます。これまでは、人間が情報を分析することで価値が創出されてきました。Society 5.0では、人工知能が人間の能力を超えてビッグデータを分析し、その結果がロボットなどを介して人間に伝えられることで、新しい価値が産業や社会にもたらされます。
SDGsとSociety 5.0
SDGs とSociety 5.0は、多くの点で相互に関連し、補完し合っており、「Society 5.0 for SDGs」としても用いられます。Society 5.0を実現するためには、IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなどの先端技術が重要な役割を果たしますが、これらを活用することにより、SDGsの各目標に貢献するという流れです。
例えば、Society 5.0では、デジタル化や人工知能などのイノベーションを通じて、人々の健康や教育、エネルギー、交通などの分野で、より高い品質と効率性を提供することができます。
これは、SDGsの目標3(健康と福祉)、目標4(質の高い教育)、目標7(クリーンエネルギー)、目標9(産業とイノベーション)、目標11(持続可能な都市)などに貢献することになります。
ほかにも、データや知識の共有や協働を促進することで、多様な価値観やニーズに応えることができます。これは、SDGsの目標10(人や国の不平等をなくす)、目標16(平和と正義)、目標17(パートナーシップ)などに寄与することになります。
Society 5.0とSDGsは、人類が直面する複雑で重大な課題に対して、革新的で包括的な解決策を提供する可能性を秘めています。しかし、その実現には、政府や企業、市民社会や学術界などの多様なステークホルダーが連携し、共通のビジョンに向かって行動することが必要です。Society 5.0とSDGsは、私たち一人一人が参加し、責任を持ち、創造力を発揮することで、より良い未来を築くことができるというメッセージを伝えています。
まとめ
ITとSDGsは、相互に影響し合う関係にあります。ITは、SDGsの達成に向けて多大な貢献をするであろうと考えられています。同時にSDGsは、ITの発展に向けて新たなチャレンジやチャンスを提供します。
一方、ITは、SDGsの達成に向けてポジティブな役割を果たすことができますが、同時にネガティブな影響も及ぼす可能性があります。例えば、デジタルデバイド(情報格差)やプライバシー侵害、サイバー攻撃などのリスクが存在します。また、ITはエネルギーや資源を大量に消費し、廃棄物を大量に生み出すことも有りえます。こういった課題を解決しつつ、うまく活用することも重要となってきます。
ITとSDGsの関連性について理解を深めることにより、持続可能な社会の実現に向けて積極的に参加することができるでしょう。今後もIT企業の取り組みや最新情報に注目し、持続可能な未来に向けた努力をサポートしましょう。