新規事業開発トレーニング概要

本新規事業開発トレーニングは、新たなビジネス展開を検討する者を対象に、実践的な情報を提供し新規事業サービスを開発しリリースするための支援を目的としている。
本トレーニングの講師を務める関根 壮至(せきね たけし)氏は、弊社(株式会社BFT)でコンサルタントを委託している「ランナーズ株式会社の代表取締役であり、同社は、新規事業開発やイノベーション創出を支援するコンサルティング会社である。関根氏は、これまでに多くの企業の新規事業開発を支援してきた実績があり、新規事業開発に関する豊富な知識と経験を持っている。

関根壮至氏

本トレーニングでは、関根氏が新規事業開発の基礎から実践までを解説する。新規事業開発を検討している経営者や、新規事業開発に携わるビジネスパーソンにとって、本トレーニングは非常に有益な内容となっている。
本連載記事では、トレーニングで学んだ、新規事業を開発するために必要なスキルや知識を紹介する。

なお、本トレーニングは以下の流れで、全体で10カ月~15カ月を目安に進めていく。

新規事業開発トレーニングのスケジュール

第1回目のテーマは「現状確認に入る前の前提」である。第1回目では、新規事業開発に携わるにあたり、必要となる前提知識や、スキルについて解説する。

新規事業開発トレーニングを受講する目的

まず、今回弊社が本トレーニングを受講するに至った経緯・目的について説明する。

1.一般企業を対象としたビジネスを展開するため

弊社は現在、大手システムインテグレーター(SIer)をメインターゲットとしたビジネスを手がけている。これまでの業務は堅実に進行してきたが、その市場における成長の頭打ちを感じるに至り、内部では危機感が高まりつつあるのが現状である。このような状況を打開するためには、事業の幅を広げ、新たな顧客層へのアプローチが不可欠であるという結論に至った。

具体的には、一般企業をターゲットとしたビジネスモデルへのシフトが考えられる。これは、大手SIerに依存することなく、弊社の事業基盤を強化し、収益の多角化を図る上で重要な戦略の一環である。新規事業の展開は、これまでの業務フレームワークに捉われない革新的なアイデアを要求される。

2.弊社独自の次世代ビジネスモデルへと発展させるため

新規事業を展開する際には、そのサービスが市場において実際に成長する可能性を持っているかをビジネスの観点から慎重に検証することが不可欠である。仮説を立て、それをテストし、データに基づいてサービスが持つ成長性を見極める作業は、新規事業の成功を左右する重要なステップである。さらに、市場のニーズやトレンドに合わせて、効果的なアプローチ方法を策定することが求められる。

弊社は、定型的なビジネスモデルに留まることなく、独自の強みを活かした革新的なビジネスモデルの構築を目指している。この強みとは、市場における弊社の競争優位性、特有の技術力、豊富な業界知識などである。これらを組み合わせ、独自性の高いサービスを創出することで、新規事業の確固たる地位を築くことができるだろう。

しかし、内部のリソースや視点だけでは限界があるため、新しいビジネスモデルを客観的に評価し、さらに洗練させるためには、外部の専門家からのアドバイスを受け入れることが賢明である。そのためには、外部のコンサルタントや業界の専門家を招き、彼らの知見や手法を学び、弊社の事業開発プロセスに取り入れることが必要になる。

3.経営人材を育成するため

弊社では、経営判断を経営層だけでなく、社員一人ひとりにも関与してもらうことで、経営人材の育成を図りたいという強い意志がある。この取り組みにより、メンバー個々の能力向上はもとより、組織全体としての将来の変化への適応能力を高めることができると考えられる。また、メンバーが実際の経営判断に携わることで、リーダーシップスキルの向上やモチベーションの増進が期待される。経営に直接関わることで、メンバー自身のキャリアに対する意識も高まり、組織全体の活性化に寄与するという見込みである。

このような目的を実現するために、トレーニングプログラムが導入された。このプログラムは、新規事業開発に関する知識やスキルを社員に提供することで、経営層だけでなく、一般社員も新規事業の立案と実行に積極的に参加できるようにすることを目的としている。トレーニングを受けることで、メンバーは新規事業開発のプロセスを学び、実際にそれを体験することが可能になる。

2024年1月30日時点で、弊社の社員数は424名であり、そのうち44名がこのトレーニングプログラムに参加している。特に注目すべきは、リーダー経験がないメンバーも自発的に参加している点である。これは、組織が新たな取り組みに対して前向きである証拠であり、トレーニング環境が整備されたことが、すでに組織にとってプラスの影響を与えていることを示している。

新規事業開発で必要な5つの能力

新規事業で必要な能力について聞かれた際、大抵の場合は新規事業を考える「発想力」が重要になってくると考える人も多いのではないだろうか。
もちろん「発想力」も重要な能力だが、新規事業で必要とされる能力は「発想力」に加えて、「分析力」「仮説力」「企画力」「実行力」も重要な能力になってくる。

本トレーニングで新規事業を開発するための手法を学ぶことによって、以下で解説する5つの能力を向上することが可能である。

新規事業で必要な5つの能力
新規事業で必要な5つの能力

1.発想力

発想力とは、サービスを考えるひらめきのことである。重要なのは、プラス面だけでなくマイナス面を考える能力も同様に必要だということである。
例えば、ある地域の観光業を発展させる新しいサービスを考える場合、その地域の自然環境への影響や地元住民の生活への負担を考えることで、サステナビリティを高めつつ、長期的な成功を確保する方針を立てることができる。

2.分析力

分析力は、財務諸表などの数値情報の分析と、企業の強み弱みなどの非数値情報の分析がある。
非数値情報の分析には、鷹の目蟻の目の視点が重要で、物事を俯瞰してみることと細かくみることの両方がバランスよく必要とされる。企業内部の分析を細かく行うことも必要であるが、競合他社の市場占有率や最新のトレンド分析も行い、市場全体の動向を把握することも重要である。ポジショニングマップを作成し業界全体で自社や新規事業サービスの位置づけを測ることも有用である。

3.仮説力

仮説力は新規事業サービスの構築と検証のことである。
特に重要なのが検証で、仮説が正しいか?の確認をしっかりと行っていく必要がある。インターネットでの調査に加えて、限られた市場で実際にサービスの導入を行ったりアンケートをとったりしてユーザーの反応や利用状況をモニタリングすることが重要である。この情報を元に仮説を検証し、必要に応じてサービスを改善していくことが成功の鍵となるだろう。

4.企画力

企画力は判断力に近いものである。提案されるさまざまなアイデアを統合したり削ったりといった選びぬく力のことである。
市場の需要や競合商品の強みを考慮しながら、独自性や顧客の期待に応える魅力的なサービスを提案する必要があり、さらに限られたリソースの中で最も効果的なサービスを選別する判断力も求められる。

5.実行力

実行力は、新規事業を推進していく力のことである。
新しい製品を市場に投入する場合、製造から販売までのプロセスをスムーズに進めるための計画を立て、それを徹底的に実行する必要がある。また、問題が発生した場合には迅速に対応し、計画の修正や変更が必要な場合は柔軟に対応することが求められる。
こうしたことを段取り良く推進できるリーダーの存在も重要になってくるだろう。

新規事業の考え方の型

新規事業を始めるといっても、まずなにから手を付けてよいか分からないという方も多いのではないだろうか。また、やみくもに案を出して走り出し失敗に終わるというケースも多く存在する。そういった事態を回避するために、考え方の型を知っておくことが大いに役立つ。

垂直拡大/水平拡大

垂直拡大は、既存のビジネスの中で事業を拡大することである。
例えば、下請けに委託している仕事を自社で担うなどである。
垂直拡大のビジネスは営業パワーが最小限で済む、競争になりにくい、持続的に取引しやすいといったメリットが得られる。
画期的な新しいサービスだけが新規事業ではなく、既存のビジネスの中で事業を拡大することも一つの新規事業である。現在のビジネスを分析して拡大できるところはないか洗い出すことも必要だろう。

また、水平拡大は、同業他社のビジネスを取り入れることである。
例えば競合他社の買収がこれにあたる。
水平拡大のビジネスは一気にシェアを奪える、経営資源(人、モノ、技術など)を得られるといったメリットがある。
水平拡大のビジネスはスピーディーに利益が得られるという反面、ある程度の資金が必要になる場合が多いため利益や金銭面など総合的に評価する必要がある。

関連多角化/非関連多角化

関連多角化は、既存のビジネスに関連があるものの事業拡大である。
例えば、ITインフラ事業を展開する企業がシステム開発を行う場合などである。ITという観点で共通しているため関連多角化といえる。これにより、既存の顧客に新しい付加価値を提供することも可能になる。

他方で非関連多角化は、既存のビジネスに関連のないものの事業拡大である。
例えば、食品小売業が航空事業に進出するなどである。
非関連多角化は、新たな市場での機会を追求できる一方で、業界や市場に不慣れなリスクもある。このため、慎重な戦略が求められる。

ゴールドラッシュ型

ゴールドラッシュとは、新しく金が発見された土地へ金を狙う採掘者が殺到することである。実際にアメリカのカリフォルニアで、1848年から1850年半ばにゴールドラッシュが起こった事例があるが、このときに利益を得たのは金を掘り起こす道具を売った企業だという。

このゴールドラッシュ型のビジネスとは、金を掘り当てるのではなく、掘る人に事業を展開することを指す。例えば、アニメやゲームの制作者に対して、GPUという道具を販売したNVIDIAなどの企業がこれにあたる。アニメはセル画からコンピューターでの作業に手法が変化する中でGPUが必要とされ、ゲームはドット絵から3DCGが主流になる中で高性能なGPUが必要とされた。他にも、Bitcoinのマイニング(発掘)には短時間で大量の計算が必要となる。これに効率が良いのがGPUであった。そのため、 GPUを販売するNVIDIAなどは大幅な増産を行ない、発掘するための道具(グラフィックボード)を提供した事例もある。

現在考えている新規事業サービスが金を掘り当てにいっていないか?掘る人をターゲットにした事業はないか?と考えてみるとより良いサービスが思い浮かぶかもしれない。

ストック・フロー

フロー型は、一回の発注で終わるビジネスのことである。多くの売買がこれに該当する。
対してストック型は、一回の発注で終わらずに継続的に金銭が発生するビジネスのことである。例えば動画や音楽のサブスクリプションが該当する。ストック型ビジネスを展開することで安定して収入が伸びるといったメリットがあるため、一度軌道に乗れば非常に強いビジネスモデルとなる。

新規事業開発トレーニングを受講して

今回の新規事業開発トレーニングでは、新規事業を進めるにあたって前提として覚えておきたい知識を習得した。
新規事業を考える場合、サービスの独創性のみに考えを向けてしまい、物事を俯瞰してみることが欠けていることに気づかされた。
根拠のない安易な考えで進めてしまうことでその事業が失敗に終わることは容易に想像がついてしまう。

また、考え方の型を知っておくことで、新規事業サービスの発想が湧きやすく、同時にメリットデメリットを把握した上でサービスを考案することができる点は非常に有用な手法であると感じた。
今後のトレーニングで、今回学んだことを軸に新規事業開発の能力を高めていきたい。

次回は新規事業開発トレーニング第2回として、内部分析の手法について掲載予定である。