メタバースという言葉は耳にしたことがあっても、「仮想空間?現実世界じゃだめなの?」とメリットがつかめなかったり、「VRゴーグルが必要なんでしょ?」と機器などのハードルの高さを感じたりと、なかなか身近に感じられていない方も多いのではないでしょうか。

しかし、メタバースには機器が不要なものもあり、実は想像しているほど利用のハードルは高くありません。また、メタバースを利用することで得られるメリットも多くあります。

そんなメタバースを実際に企業で取り入れた事例や、企業イベントが開催できるさまざまなメタバースプラットフォームを実際のレビューも交えてご紹介します。

メタバースとは?

メタバース(Metaverse)とは、以下のように定義されています。

メタバースとは、インターネット上の仮想空間です。現実世界を超える体験とコミュニケーションを通して経済活動が生み出されます。ユーザーは、3次元で構成された仮想空間の中で、自分自身の分身であるアバターを介して自由に動き回り、他者と交流し、商品やサービスの売買などさまざまなことを体験できます。

NRI 用語解説 より

メタバースとひとまとめに言っても使用目的はさまざまです。
たとえばゲーム系のFortnite(フォートナイト)やMinecraft(マインクラフト)、メタバース内でお金を稼ぐNFT系のTheSandbox(サンドボックス)、他者とのコミュニケーションを目的としたソーシャル系のVRChatなどです。
今回は企業のイベント開催を目的としたものを取り上げるためソーシャル系のメタバースを紹介します。

さらにメタバースとVRの違いや特徴などメタバースを深く知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
メタバースとは?〜特徴と用途をわかりやすく解説!

メタバースの動向

三菱総合研究所が2022年に16歳から89歳までの1万人を対象に行ったアンケートでは、メタバースを認知している人が80%強、利用したことがある人が5.5%弱でした。
また年代別で見ると、10代、20代の利用経験者は10%を超えており、若い世代でメタバースの利用率が高いという結果が出ています。

また総務省が発表している、国内外におけるサービス・アプリケーションの動向によると、世界のメタバース市場規模(売上高)の推移及び予測では、2021年に4兆2,640億円だったものが2030年には78兆8,705億円まで拡大すると予想されています。

このようにメタバースは、若い世代を中心に今後伸びていく事業であるといえるでしょう。

さらに大手企業のメタバース事業への参入も見られます。例えばKDDIのαU (アルファユー)や、NTTドコモの子会社、株式会社NTTコノキューのDOOR(後ほど紹介)などです。それ以外にも三越伊勢丹のREV WORLDSや大和ハウスのLiveStyle PARTNERなどメタバースを利用してサービスを展開している企業もあります。

メタバースイベントのメリットとデメリット

メリット

メタバースイベントのメリットとして挙げられるのが、ゲーム感覚で楽しめるという点です。
アバター同士で仮想空間を歩き回るだけでも新鮮でわくわくします。また世界中どこからでも参加でき、地理的な制限なくさまざま人とコミュニケーションがとれるのも魅力です。

またメタバースは、現実世界ではお金と時間がかかったり物理的に困難であったりする演出も、自由にカスタマイズして実現が可能です。
さらにメタバース内で企業合同のイベントを開催する場合もあり、外部にアピールできる機会も増えます。

デメリット

デメリットとして挙げられるのがインストールや登録の手間です
メタバースを利用するために最低限の登録作業は必要になるため、イベントを開催する際は参加者が困らないように説明を加えるなどの配慮をする必要があります。

また、ネット環境およびデバイスの制約が挙げられます。ネット環境が悪い場合や、使用デバイスがメタバースに対応していない場合などイベントを利用できないケースもあります。世界中のだれもが参加できるという利点がある反面、こういったデメリットがあることを理解しておく必要があります。

他にも、VR酔いによる体調へのリスクもあります。VR酔いとは、メタバース体験中にめまいや吐き気などの症状が起こることです。VR酔いの感じやすさは人によりますが、長時間の利用や激しい画面の動きを控えるなど注意をする必要があります。

企業のメタバース活用事例

では次に実際に企業がどういった用途でメタバースを活用しているか一例をご紹介します。

社内イベント

メタバースを社内イベントに活用した企業に武田薬品工業株式会社があります。(タケダ初の開催となる「メタバース社内交流会」成功の舞台裏

メタバースで社内イベントを開催することで、リモートワークが増加しコミュニケーションをとる機会が減った昨今、社員同士で会話できる機会を作ることができます。

販促活動

先述した三越伊勢丹や大和ハウスの他にも、BEAMSのバーチャルショップや日産自動車の乗車体験などがあります。日産自動車のメタバース乗車体験に参加してみましたが、まるで本当に乗車しているかのように車が動いて驚きました。

また、VRChatが主催するバーチャルマーケットなど、個人や企業が各々出展する合同イベントが開催される場合もあります。バーチャルマーケットは、メタバース上で3Dデータ商品やリアル商品(洋服、パソコン、飲食物など)を売り買いできる世界最大のVRイベントで、世界中から100万人以上が来場します。
こうした合同イベントの開催もメタバースの魅力です。

会社説明会

メタバースは採用活動にも利用できます。新卒採用会社説明会を行った企業として中京テレビがあります。(【メタバース会社説明会】 中京テレビが新卒採用向けに「メタバース会社説明会」を実施!

メタバースで会社説明会を開催することで、地理的に会場へ向かうことが難しい人も気軽に参加できるようになります。またメタバース空間をオフィス仕様にすることで、メタバース上でオフィスツアーの開催もできます。

企業イベントが開催できるメタバース比較

数多くあるメタバースプラットフォームの中から今回は代表的なものを紹介します。
また無料のものは実際に使用してみて個人的な使用感で評価をつけました。
なお今回はパソコンを使用し、VRゴーグルなどの機器は使用していません。

無料のメタバース

①VRChat

VRChatは、アメリカ企業の「VRChat Inc.」が運営する、同時接続ユーザー数が平均2万人以上の全世界で人気のあるメタバースプラットフォームです。
自分の作品を世界の人に共有したり、ゲームを行ったり、他のユーザーと交流をしたりといったことが可能です。

1. 始めやすさ ★★☆☆☆

VRChatの始めやすさとしては、インストールに多少手間がかかるため★2としました。Steamというゲーム配信アプリケーションのインストール後に、Steam内でVRChatをインストールする必要があります。
また現在2023年9月時点では、モバイル版の使用がAndroidのみで有料サブスクリプションプランの会員のみに限られている点でもこちらの評価としました。

2. 操作性 ★★★☆☆

操作性に関しては、視点の動きもスムーズでイベントへの参加も簡単に行うことができてよかったです。
ただ、世界中のユーザーが利用するので日本人がいるルームを探しにくいのとUIが英語にしか対応していないという点で少し使いにくさを感じました。

VRChatのワールド参加画面
VRChatのワールド参加画面
3. ワールド(イベント、ルーム)作成の手軽さ ★★☆☆☆

VRChatで自分のワールドを作成する場合、SDKキットのインストールとUnityでの操作が必要になるためワールド作成は手軽とは言えないと感じました。逆にUnityをもともと使っていたという方は手軽に感じるかもしれません。

②Cluster

Clusterは「クラスター株式会社」が運営する日本最大級のメタバースプラットフォームです。
年間200件以上の企業イベントが行われ、イベント累計動員数は2000万人を突破しています。
ただし、法人利用の場合は問い合わせが必要になるためご注意ください。

1. 始めやすさ ★★★★☆

アプリケーションのインストールは必要になるものの、インストール後はすぐにアバター作成やイベント参加が可能になり、UIが分かりやすかったので★4としました。
また、Clusterはモバイル版があるのでデバイスの制約が少ない点も魅力です。

2. 操作性 ★★★★★

日本企業ということもあり画面や使い方の説明が日本語で分かりやすく記載されていて使いやすかったです。
イベントも探しやすく、自分のアバターを作れるのも面白かったです。

Clusterのイベント参加画面
Clusterのイベント参加画面
Clusterのアバター設定画面
Clusterのアバター設定画面
3. ワールド(イベント、ルーム)作成の手軽さ ★★★★☆

ワールド作成は、デフォルトで用意されているアイテムを利用して作成が可能です。
また、オリジナルアイテムを使用したいという方は、Unity とCluster Creator Kit を導入することで作成が可能です。またBlenderをあわせて利用することでより自由なアイテムの作成が可能になります。

③DOOR

DOORは「株式会社NTTコノキュー」が運営するメタバースプラットフォームで、情報発信や自由でオープンなコミュニケーションが行えます。
なお法人の場合も無料で利用が可能ですが、商用利用に該当する場合は事前申請が必要のためご注意ください。

1. 始めやすさ ★★★★★

アプリケーションのインストールは不要で、ブラウザからアカウント登録のみで利用が可能です。ブラウザからなのでモバイルでも利用が可能です。またイベント参加のみの場合は、ゲストログインが可能なのでアカウント登録も不要です。

2. 操作性 ★★★☆☆

椅子に座るなどの動作ができないことや、ものが動かせないという点で自由度は低いかなと感じました。次に評価するワールド作成が手軽に行える反面、ワールド作成の自由度は低くなるようです。
しかし、ワールドのURLを共有すればイベントに簡単に参加できるという点はすごく便利でした。

DOORのルーム入室画面
URLをクリックして「ルームに入室」をクリックすれば入室可能

3. ワールド(イベント、ルーム)作成の手軽さ ★★★★★

ワールド作成は、ブラウザ上で誰でも簡単に作成できるので★5としました。今回私もワールドを作成してみましたが、デフォルトで用意されたワールドを利用・カスタマイズ可能だったり、いすなどのアセットアイテムが用意されていたりと、非常に簡単に作成が可能でした。
また、Unityやキットを導入することなく、3DモデリングツールのBlenderを利用すればオリジナルアイテムの配置も可能です。

こちらが今回実際に作った空間です。どなたでも入場が可能なので良かったらのぞいてみてください!

DOOR メタバース

有料のメタバース

①めちゃバース

めちゃバースは、最大数千名規模という人数が同じメタバース空間に参加できるイベント用メタバースです。DOORと同様にアプリケーションのインストールを必要とせず、ブラウザから参加が可能です。
数千名規模というのは魅力で、例えばDOORの場合、ルーム同時接続人数は24人推奨とされています(定員を超えたらルームを分散する有料オプションあり)。
大人数でのイベントを想定している場合はおすすめです。

②V-expo

V-expoは、セミナーや展示場やショップなど、さまざまな用途に合わせて利用が可能なメタバースプラットフォームです。めちゃバースと同様にブラウザ対応です。
操作案内からリハーサルまでスタッフがサポートしてくれるサービスもあります。

まとめ!おすすめのプラットフォームは?

無料のメタバースでいうと、本格的にワールドを作りこみたいといった場合や、ワールドを分散せずに大人数入場できるようにしたいといった場合はVRChatかClusterを利用するのがいいでしょう。また全世界のユーザーに向けて発信したい場合はVRChatで、国内を想定している場合はClusterがおすすめです。
逆に展示会などの簡単なワールドを想定していて、手軽にメタバースを利用して企業イベントを開催したいという場合はDOORの利用がおすすめです。
また有料のメタバースはワールド作成を依頼することができたりイベント開催に向けての相談をすることができたりと、無料のメタバースにはないサービスを利用できます。

これらの特徴を理解し、行いたい企業イベントにあわせて選択していくのが良いでしょう。

おわりに

企業イベントを開催する手段として、メタバースの利用も現実にはないメリットがあって面白いですよね。
なんだかよく分からない世界…とメタバースを利用する腰の重さを私自身感じていたのですが、実際に使ってみると簡単で利用しやすいものであるということが分かりました。
まずは主催者側ではなく参加者側としてメタバースイベントに参加してみてはいかがでしょうか?