「クラウド化」がITを活用する企業にとってのトレンドワードになって、もうずいぶん経ちますね。

私が抱えている案件でもクラウド化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めたいけど、いざ進めるにはいくつもの壁があるのもまた事実です。

この記事では、「クラウド化をするのは会社にとっておトクなのか?」をテーマに、導入するときのメリット・デメリットや、実際に導入を進めるうえで必要な視点など、どうすれば良いのかを解説していきます。なお、この記事ではパブリッククラウドをクラウドと呼びます。

そもそもオンプレミスとクラウドってナンだ?!

オンプレミスとクラウドの違いは数多くありますが、最も大きな違いとしては「物理的に管理をする/しない」ということが挙げられます。

オンプレの場合は会社でサーバーを購入し、そこにシステムを構築して運用するケースが大多数です。購入したサーバーは自分たちだけの資産なので、サーバー単体だけではなくネットワークなども自分たちで調達、運用する必要があります。

対してクラウドとは、こういった物理サーバーの調達、運用をクラウド事業者に委託することで、自分たちに必要なサービスだけを間借りして使用するというイメージです。家でいうところの購入か賃貸かの違いがイメージしやすいかと思います。クラウド事業者へどこまでシステム化の範囲を任せるかによって、IaaS (Infrastructure as a Service = インフラ部分を間借りして、アプリは自分たちで開発する!) やSaaS (Software as a Service = ソフトウェアの機能だけ間借りする!) などの呼び方があります。また一般的にCMなどで「クラウド」と宣伝されている製品は、SaaSの広告であることがほとんどです。

オンプレミスとクラウドのメリット/デメリット

オンプレミスとクラウドのメリット・デメリットを知る前に、それぞれの特徴を抑えておきましょう。

オンプレミスとクラウドそれぞれの特徴

オンプレミスとクラウドのメリット・デメリットを知る前に、それぞれの特徴を抑えておきましょう。

オンプレミスは、自分たちでサーバーなどの製品を所有・管理するため、セキュリティや可用性などの面で高いコントロールを実現できます。一方で、初期費用や運用コストが高額になるという特徴があります。

クラウドは、初期費用や運用コストが低額で、拡張性や柔軟性に優れています。一方で、セキュリティや可用性などの面では、クラウドプロバイダーが責任を持つため、自身でコントロールできない特徴があります。

項目オンプレミスクラウド
所有権自社で所有クラウドプロバイダーが所有
管理自社で管理クラウドプロバイダーが管理
セキュリティ自社で責任を持つクラウドプロバイダーが責任を持つ
可用性自社で責任を持つクラウドプロバイダーが責任を持つ
コスト初期費用が高額初期費用が低額
運用コスト運用コストが高額運用コストが低額
拡張性拡張性に制限がある拡張性に制限がない
柔軟性柔軟性に制限がある柔軟性に制限がない

オンプレミスとクラウドのメリット・デメリット

それぞれの特徴を把握したうえで、メリット・デメリットを考えてみましょう。

それぞれの特徴が表している通り、自社で責任や管理を行うのか、それともクラウドプロバイダーが所有権や責任を持つのかでメリット・デメリットが明確になってきます。

観点オンプレミスクラウド
所有権メリット: 完全な所有権。カスタマイズ可能メリット: ハードウェア所有不要。初期投資軽減
デメリット: 資産の老朽化リスクと更新費用が発生デメリット: 物理資産所有せず、カスタマイズに制限があることも
管理メリット: 完全な管理・運用コントロールメリット: ベンダーがインフラの管理・更新を行うため、運用負担が軽減
デメリット: 専門スタッフが必要でコストがかかるデメリット: 管理権がベンダーにあるため、独自の対応が制限される
セキュリティメリット: 自社で設定・管理のセキュリティポリシーメリット: 最先端セキュリティの提供
デメリット: 全てのセキュリティ対策を自己責任で行う必要デメリット: 共有リソースのセキュリティ懸念
可用性メリット: 独自の冗長性設計による高可用性メリット:多くのクラウドベンダーが高い可用性を保証
デメリット: 災害時などの障害復旧が困難デメリット: クラウドベンダー依存リスク
運用コストメリット: コストコントロールが可能メリット: 実使用量基づく変動費での支払い
デメリット: 保守、電力、スペースなどのコストが継続して発生デメリット: 長期利用で総コスト増大の可能性あり
拡張性メリット: 自由なハードウェア選定、カスタマイズされた拡張が可能メリット: 事実上無限のリソースを提供し、需要に応じてスケールアップ・ダウンが可能
デメリット: 物理スペースや設備投資が必要デメリット: 頻繁なスケーリングが発生すると費用が予想よりも増大する可能性あり
柔軟性メリット: 内部ネットワーク内での管理で商習慣や業務プロセスに柔軟に対応メリット: 新サービスやアップデートが迅速に提供される
デメリット: 新技術導入やアップデートが遅れがちデメリット: ベンダーサービス範囲内での一部の業務に制限がある可能性

オンプレミスとクラウドは、それぞれにメリットとデメリットがあります。そのため、移行する際には、自社のニーズや要件を踏まえて、どちらが適しているかを検討する必要があります。

クラウドに移行する上での悩みポイント4つと解消の仕方

これまででオンプレミスとクラウドの違いは理解できたと思います。

それでもいざ導入を進めようとすると、「クラウド化を推進しようとしたけど、予算が通らなかった…」「経営者や現場への説明が難しい…」といった壁にぶつかります。

よくある質問とその解決のヒントをこちらに書いてみます。

目的はなに?

クラウド化の最終目的とは、「経営コストのスリム化」と「データ利活用の活性化」です。

それぞれの詳細について順番に見ていきましょう

「経営コストのスリム化」

オンプレミスであれば、サーバーの購入やシステム構築といったものは金額が大きくなり、その結果固定資産として処理する必要がありました。

購入するにも部門間での折衝が必要になりますし、規模によっては株主の承認も必要になります。また、投資額を回収する期間の計算や減価償却期間を考えたり、古くなったらまた更改を考えたりなど、自分たちで面倒を見る以上管理コストの上昇は避けられません。

SaaSとして提供されるサービスには、月額費用×人数で導入できるものも数多くあります。うまく組み合わせると、システム運用にかかるのは販管費などの経費を中心に処理できるようになります。するとどうでしょうか、投資提案をするより、少し楽になります。

「データ利活用の活性化」

クラウドは情報共有がしやすいです。これまで散らばっていたデータを統合すれば、よりスピーディに情報を収集することができます。

クラウドだとPC、スマートフォンといったデバイスの制約を受けることが少なく、これまで出社しないとできなかったことが、わざわざ出社しなくても可能になります。

働く場所を選ばない現代だからこそ、マルチデバイス対応しやすいサービスを導入してはいかがでしょう?

仕事のしかたは変わるの?

確実に変化します。システムは良くも悪くも融通が利きません。

業務歴の長い方はぜひ思い出してみてください。今はパソコンで作業している業務だって、かつては紙ベースで行われていたはずです。それがコンピュータに移行したときは混乱が大きかったと思いますが、今はむしろコンピュータがないと仕事にならなくなっている方も多いのではないでしょうか? 大丈夫です。次もきっとうまくいきます。

他社動向が知りたい

総務省の「企業におけるクラウドサービスの利用動向」調査によると、およそ7割の企業が何らかの形でクラウドシステムを導入しています。

オンプレ基盤を一切持たずにフルクラウドを達成している会社もあれば、クラウド基盤とオンプレ基盤のいいところを組み合わせたハイブリッドな形で運用している会社もあります。

外部に情報を置くのが心配…セキュリティは大丈夫?

外部のサーバーに自社の情報を置く形態になるのは事実です。大事なものは手元においておかないと…という漠然とした不安からこのような疑問が生まれていることが多いです。しかし、以下のように発想を変えてみてはいかがでしょうか?

クラウドサービスを提供するベンダーは、もちろんクラウド上の情報を取り扱うプロです。どんどん複雑化・高度化するセキュリティへの対応や、サーバー等機器の資産管理は、その道のプロにお任せできます。

また、オンプレミスだからと言って確実に安全とは言えません。サーバーのハードディスクを処分する業者が不正にハードディスクを売った事件も以前ありました。また強盗や災害発生などの重大なトラブルに対しては脆弱な面もあります。技術の高度化が進む今、サーバー管理はその道のプロに任せるのも選択の一つです。

クラウドを利用したDX推進にはココが大事!

おめでとうございます! これでめでたくクラウド化を推進する社内プロジェクトが発足しました! ここまで来てようやくスタートラインです。ここで、クラウド化を推進する上で気を付けると良くなるポイントをご紹介します

スモールスタート

いきなり全社的に導入すると、労力も大変にかかりますし、失敗したときのリスクが大きいです。オンプレミスでシステムを構築するときは、いきなり!全社展開が多いのですが、その失敗を恐れて及び腰になることもあります。

こんな時は、クラウドの恩恵である「柔軟な拡張性」を生かしてまずは少人数でのスタートをしてみましょう。例えばですが、最初は自部署のプロジェクトメンバ5名で導入し、うまくいったら自部署全体に導入します。最終的には全社展開をするような流れで進めていくようなイメージです。

こういった具合に小規模から進めていけば、万が一自社とマッチしないサービスだったとしても、損失は最小限で済みますし、全社展開時に社内ナレッジがある程度蓄積された状態になります。

共通したイメージの共有

クラウド導入が決まった段階で、最も注力すべきと言っても過言ではありません。

クラウド化することで、自分たちはどんな風に変わるのかをみんなで想像しましょう。そのイメージが一致すれば、導入時のハレーションは起こりにくくなります。導入したのはいいけれど、使い方や導入した意図が分からず、結局使ってくれないみたいな悲劇を減らすことができます。

これは決して、自分の部署だけではできません。いろんな人を巻き込んで、たくさんコミュニケーションを取ってください。

無理をしない

元も子もない気がしますが、そもそも無理やりクラウド化を進める必要はありません。

完全にではなくとも、ハイブリッドな形で導入するだけでも、管理はかなり楽になります。最初のうちはどうしてもオンプレミスと並行で稼働する期間は出てきますが、ユーザーの意識浸透のためにも必要なフェーズと考えてみましょう。

まとめ

ここまで、オンプレミスとクラウドについてクラウド移行を念頭に特徴や、メリット・デメリット、さらにはクラウド移行を行ううえでの勘所についてお話させていただきました。

それで、「結局どちらがおトクなの?」という問いに対しての回答ですが、オンプレミスかクラウドのどちらが自社にとって適しているかは、自社のニーズや要件によって異なります。例えば、セキュリティや可用性などの面で高いコントロールが必要であれば、オンプレミスの方が適しています。一方で、初期費用や運用コストを抑えつつ、拡張性や柔軟性を重視したい場合は、クラウドの方が適しています。

オンプレミスとクラウドのどちらが適しているのか判断するには、自社のニーズや要件を明確にする必要があります。そして、それらを踏まえて、メリットとデメリットを比較検討する必要があります。

もし、自社で判断するのが難しい場合は、クラウドベンダーやSIerに相談してみるのも良いかもしれません。クラウドベンダーやSIerはオンプレミスとクラウドの両方のメリットとデメリットを熟知しており、会社にとって最適な選択肢を提案してくれます。