クラウドコンピューティングの普及に伴い、企業の情報システムにおける機密情報の管理は重要な課題となっています。パスワード、API キー、証明書などの機密情報を適切に保護し、アクセスを制御することは、セキュリティ強化と法令遵守の観点から不可欠です。そこで、Microsoft Azureが提供するセキュリティカテゴリのサービスである、Key Vaultが役に立ちます。
Azure Key Vaultは、クラウド上で機密情報を安全に保管し、管理するためのサービスです。企業の情報システム部門や一般事務社員の方々は、機密情報の管理に苦慮することが多いと思います。Azure Key Vaultを活用することで、これらの課題を解決し、クラウド上の情報資産を効果的に保護することができます。
本記事では、Azure Key Vaultの概要、主な特徴、利用シナリオ、導入方法、価格体系、などを紹介します。クラウドセキュリティの強化に関心のある方は、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。
目次
Azure Key Vaultとは?
Azure Key Vaultは、Microsoft Azureが提供するクラウドサービスの1つです。機密情報を安全に保管し、アプリケーションからの適切なアクセスを実現するためのサービスです。
クラウド上でアプリケーションを開発する場合、パスワードなどの機密情報をアプリケーション内に直接埋め込むなどの方法をとっていました。この状態では、アプリケーションを構成するファイルが不正に取得された場合、重要な情報が流出してしまうリスクがあります。
この課題に対し、Azure Key Vaultは有効な解決策となり得ます。Azure Key Vaultでは、機密情報をアプリケーションに含めず、「キーコンテナー」と呼ばれる仮想の金庫に保管して、必要に応じて機密情報にアクセスできるようにしています。
Key Vaultには以下のような主な機能があります
暗号化キー、シークレット、証明書の管理
アプリケーションで使用する暗号化キー、パスワード、APIキー、SSL/TLSの証明書などの機密情報を一元管理できます。
HSMによる高度な暗号化
ハードウェアセキュリティモジュール(HSM)を使用した FIPS 140-2 Level 2準拠の暗号化が可能です。
アクセス制御とログ記録
細かなアクセス権限の設定や、アクセス履歴の監査が行えます。
バックアップと復元
Key Vaultに保管された情報をバックアップし、必要に応じて復元できます。
Azure Key Vaultの特徴
Azure Key Vaultの特徴は「安全な金庫に機密情報を保管し、認証によって必要なユーザーにのみ提供する」という仕組みを実現していることです。これにより、アプリケーションファイルからの機密情報の漏洩を防ぐことができます。
さらに、クラウド上にある機密情報にすぐにアクセスできるため、認証と許可にかかる待機時間を短縮し、アプリケーションのパフォーマンスにも影響を与えないメリットがあります。
加えて、Azure Key Vaultは外部からの不正アクセスだけでなく、内部関係者による情報漏洩のリスクにも対処できます。アプリケーション開発の一部を外部に委託する際も、パスワードなどの共有を行う必要がなくなるため、セキュリティ上のリスクを低減できます。
このように、Azure Key Vaultを活用することで、クラウド上のアプリケーション開発における機密情報の管理と保護が格段に容易になります。アプリケーション開発の生産性向上と、セキュリティの強化を同時に実現できるのが大きな特徴といえるでしょう。
他にも、Azure Key Vaultには以下のような特徴があります。
高度なセキュリティ | HSMによるFIPS 140-2 Level 2準拠の暗号化を提供アクセス制御とログ記録機能で、誰がいつ何にアクセスしたかを監視可能バックアップと復元機能で、情報の可用性を確保 |
柔軟性と拡張性 | 複数のキー、シークレット、証明書を一元管理REST APIによる簡単な統合が可能必要に応じてスケールアウトできる |
高い信頼性 | 99.9%のサービスレベル目標(SLO)を提供地理的に分散したデータセンターでレプリケーションされる |
コスト効率 | 従量課金制なので、実際の利用に応じて支払い初期投資やライセンス費用が不要 |
Azure製品との親和性 | Azure上のアプリケーションやサービスと容易に連携可能Azure Entra IDとのシームレスな統合 |
これらの優れた機能と特徴により、Azure Key Vaultは、クラウド上のアプリケーション開発における機密情報の管理と保護に最適なソリューションといえるでしょう。
Azure Key Vaultの主な利用シナリオ
Azure Key Vaultは様々な場面で活用できます。代表的な利用シナリオは以下の通りです。
アプリケーションの暗号化キー管理 | Webアプリ、モバイルアプリ、APIなどで使用する暗号化キーを一元管理 |
機密情報の保管と管理 | パスワード、APIキー、接続文字列などの機密情報を安全に保管 |
SSL/TLS証明書の管理 | Webサイトやサービスで使用するSSL/TLS証明書を一括管理 |
ハイブリッドクラウド環境でのキー管理 | オンプレミスとクラウドの両方で使用する暗号化キーを一元管理 |
コンプライアンス要件への対応 | 監査証跡の記録や、FIPS 140-2 Level 2準拠の暗号化で規制に対応 |
このように、Azure Key Vaultは企業の情報システムにおける様々な機密情報の管理に活用できるクラウドサービスです。
Azure Key Vaultを始めるためのステップ
Azure Key Vaultは、以下のようなステップで始めることができます。
- Azure Portalにアクセス: Azure Portalにログインし、Key Vaultサービスを検索、実行します。
- Key Vaultの作成: 新しいKey Vaultを作成します。リージョン、価格レベル、アクセス ポリシーなどを設定します。
- アクセス制御の設定: Key Vaultへのアクセス権限を、ユーザーやアプリケーションごとに細かく設定します。
- キー、シークレット、証明書の追加: Key Vaultにキー、パスワード、APIキー、SSL/TLS証明書などを追加していきます。
- アプリケーションとの統合: REST APIを使ってアプリケーションからKey Vaultにアクセスできるよう、統合を行います。
- 監視とログ記録の設定: Key Vaultへのアクセス履歴の監査ログを有効化し、セキュリティ監視を行います。
- バックアップと復元の設定: Key Vaultのデータをバックアップし、必要に応じて復元できるよう設定します。
このように、Azure Key Vaultの導入は比較的簡単です。Azure Portalのウィザードに沿って進めていけば、短時間で運用を開始できます。
Azure Key Vaultの価格・料金
Azure Key Vaultの価格はおもに以下の要素で設定されています。
- ボールトのサービスレベル
- ソフトウェアで保護されたキー
- HSM で保護されたキー
詳細についてはこちらで最新の情報を確認してください。
ボールトには、Standard と Premium の 2 つのサービス レベルが用意されています。
標準 | Premium | |
秘密情報の操作 | $0.03/10,000 トランザクション | $0.03/10,000 トランザクション |
証明書の操作1 | 更新 –$3/更新リクエストごと。 その他すべての操作 –$0.03/10,000 トランザクション | 更新 –$3/更新リクエストごと。 その他すべての操作 –$0.03/10,000 トランザクション |
Managed Azure Storage アカウント キーの交換 (プレビュー) | プレビュー期間中は無料です。 一般提供価格 — 更新あたり $1 | プレビュー期間中は無料です。 一般提供価格 — 更新あたり $1 |
ソフトウェアで保護されたキーの料金設定は以下のとおりです。
標準 | Premium | |
RSA 2048 ビット キー | $0.03/10,000 トランザクション | $0.03/10,000 トランザクション |
高度なキーの種類 – RSA 3072 ビット、RSA 4096 ビット、楕円曲線暗号 (ECC) キー | $0.15/10,000 トランザクション | $0.15/10,000 トランザクション |
ソフトウェアで保護されたキーの料金設定は以下のとおりです。
標準 | Premium | |
RSA 2048 ビット キー | 該当なし | キーあたり $1/月 + $0.03/10,000 トランザクション |
高度なキーの種類1 – RSA 3072 ビット、RSA 4096 ビット、楕円曲線暗号 (ECC) キー | 該当なし | 最初の 250 キー キーあたり $5/月 251 – 1500 キーからキーあたり $2.50/月 1501 – 4000 キーからキーあたり $0.90/月 4001 キー以上 キーあたり $0.40/月 + $0.15/10,000 トランザクション |
まとめ
Microsoft AzureのKey Vaultサービスは、クラウド上の機密情報を安全に管理するための強力なツールです。高度なセキュリティ、柔軟性、信頼性、コストについても安価であり、様々な利用シナリオで活用できます。
企業の情報システム部門や一般事務社員の方々は、機密情報の管理に悩むことが多いと思います。Azure Key Vaultを活用することで、これらの課題を解決し、クラウド上の情報資産を効果的に保護することができます。
本記事では、Azure Key Vaultの概要、主な特徴、利用シナリオ、導入方法、価格体系、などを紹介しました。クラウドセキュリティの強化に関心のある方は、ぜひ参考にしていただければと思います。